UBL-039/040/041

以前製作したUBL-034 Mosaic Juiceは初めて作ったSession IPAにしてはなかなかの出来だったが、多くの方にコメントをもらう中で問題点が明らかになってきた。それらを元にレシピの改善を行ってみる。

UBL-034 Mosaic Juiceの反省と打ち手

前回S-IPAのレシピは以下の通りだ。

Batch Size 8.0L
Malt : Maris Otter 74%, Wheat Malt 16%, Calapils 7%, Flaked Oats 3%
Hop : Mosaic(Boil 11min), Mosaic(Whirl Pool 30min), Mosaic(Dryhop 3 day)
Yeast : WLP-001
Mashing : 68℃ 90min 75℃ 10min
Boiling : 90min
Fermentation : 19℃ 2weeks

■ボディ

●反省点

セッションと銘打っておきながら、あとに残る甘さが強く、飲み疲れる感じがある。この原因としてはリッチなグレインビルに更に高いマッシング温度(68℃)をかけ合わせたことだ。低いOGに対してバランスを取ろうとしているなら、どちらか片方だけをリッチにすべきで、両方はやりすぎだった。

●打ち手

グレインビルはひとまず固定とし、代わりにマッシング温度を68℃から65℃へ下げ、発酵性糖分の割合を増やす。これでバランスが取れるはずだ。加えて秘策としてWLP-090 San Diego Superを酵母に採用する。これは私の愛するセッションIPAであるLagunitasのSumpin' Easyのレシピに基づく判断だ。当該ビールでは、OG1.050に対してABVが5.7%と非常にAttenuationが高く、数値にすればこれは88%程度である。前回使用したWLP-001のAttenuationは73-80%であり、実際の数値は79%であった。そこで、さらなるドライな仕上がりを狙うため、高Attenuationな菌株として名高いSan Diego Superを使用する。当該酵母のAttenuationは76-83%と、他の菌株と比較して突出して高い。以上のマッシング温度の低下、高Attenuation菌株の採用でドリンカビリティを向上させる。

■ホップ

●反省点

モザイクホップによるアロマ/フレーバーがやや単調であったのが気になるところだ。加えてジャッジの方にテイスティングして頂いた際に頂いたコメントとして、「個々まで明瞭なマンゴー/パパイヤのアロマ、フレーバーが出ているモザイクIPAは初めて飲んだ」という物があった。悪く捉えればアロマ/フレーバーが単調ということで、この特徴を活かしつつ複雑さを出していきたい。

●打ち手

前回のレシピではワールプールホッピングの量がドライホッピング量の1.7倍程度と多く、おそらくワールプールベースのホップアロマ、フレーバが支配的になってしまっていたのだろう。ワールプールホッピングでは、投入された芳香成分が酵母によって代謝され、異なる芳香成分に変わる”Biotransformation”の効果が得られる。テイスティングして頂いたジャッジの方のコメントで「モザイクらしくない」というニュアンスがあったが、これはBiotransformationに起因すると推測する。そこで今回は現状のワールプールに加えてドライホッピング量を増やすことで、ワールプールによるマンゴー/パパイヤ支配から抜け出し、モザイクの個性を豊かかつ複雑に感じられるようなアロマ/フレーバーを目指す。


以上のボディおよびホップについて改良を行い、それ以外の要素はすべて固定とする。なお、ホップについてはモザイク以外にもいろいろ試してみたかったため、モザイクシングル以外にプラス二種類、使用ホップを変更したバッチを並行して仕込むことにした。レシピは以下の通りだ。

Batch Size 4.0L
Malt : Maris Otter 74%, Wheat Malt 16%, Calapils 7%, Flaked Oats 3%
Yeast : WLP-090 (San Diego Super)
Mashing : 65℃ 90min 75℃ 10min
Boiling : 90min
Fermentation : 19℃ 2weeks

UBL-039 Ver. Equinox : Mosaic 12g 11min, Equinox 14g Whirlpool 30min, Equinox 12g Dryhop 3day
UBL-040 Ver. Mosaic :  Mosaic 12g 11min, Mosaic 14g Whirlpool 30min, Mosaic 12g Dryhop 3day
UBL-041 Ver. Tropical Mix : Mosaic 12g 11min, Citra Chinook Mosaic 5g each Whirlpool 30min, Citra Chinook Mosaic 4g each Dryhop 3day

仕込とか発酵とか

以前マッシングに導入しようとして失敗した低温調理器君は、今やマッシュインの温度調整のためだけに使用されている。だが、これが実はすごい便利。お金に余裕のある人はどうぞ。また今回から14L入る寸胴鍋を導入した。これで12Lの仕込が一度にでき、それを3等分することで4L×3バッチを同時並行で仕込むことが出来る。IPAのようなホップフォーワードなビールを作る際、ホップレシピだけを変えて複数バッチを醸せるのは非常に効率がよいため、良い投資だった。

ボイリングまで完了後、3つの鍋にウォートをサイホンで分割し、それぞれにワールプールホッピングを施す。このサイホンが非常に面倒だったので、次のバッチまでに工程を更に詰めておきたい。イーストは初めて使うSan Diego Super。いつもの通りパッケージとハサミを両方殺菌した後、適切な量を3つの発酵容器に投入する。

発酵時の温度制御にはサーモスタットを噛ませた冷蔵庫を使用する。このままでは庫内で最大2℃程度の温度勾配が発生することはわかっていたので、今回新たにファンを冷蔵庫内にインストールすることにした。3Dプリンターで出力した治具をファンに取り付けることで、冷蔵庫内のガラス板に容易に取り付けることが出来る。このファンに別途用意した電源装置で9V程度を印加することで、庫内の温度差が完璧になくなることが分かった。

発酵とドライホッピングが完了後、強制カーボネーションのためにケグ詰めを行う。CO2パージしたケグに予め不織布を入れ、ホップカス等の入り込みを防止する。その後は蓋をし、CO2タンクを接続。リキッド温度から計算される適切な圧力値にレギュレータの出力圧を設定してケグをシェイクしまくる。レギュレータからガスの流れる音がしなくなったら、3Dプリンターで自作したカウンタープレッシャーボトルフィラーを使ってボトリングをしていく。

2018/12/31 完成

2018年最後の日、ついにセッションIPA三部作が完成した。

前回のヴァイツェン三部作と並べると壮観である。ここはクラフトビール屋か?(ただし味は…

テイスティング結果とかを下記に示していく。

■UBL-039 S-Equinox Prototype

2018/12/30

アロマはマンゴーのような、桃のような爽やかな香り。ボディは完璧。非常にスムースかつドライ。以前あったような重たさは無い。しかしフレーバーにやや違和感。

2019/01/15

明瞭なぶどう!みずみずしく、甘さ満点の白ぶどう。シャインマスカットかな。桃のような酸味のあるアロマもある。シャープで良いアロマだ。飲むと、ドライさ、シャープさ、そして渋みを前に感じてしまうため、フレーバーは強くない。ボディは非常にドライだが、口当たりはスムースで、あとに残るようなベタつく甘さはなし。ただ、やっぱり度数が高い分、辛さを感じる。もっと甘さを感じるようなアロマ、フレーバーを付与できるモザイクをドカンと入れれば、ドライさと甘さのバランスが取れて、完璧になりそうな予感。コレはこれで、渋みがなければライトでフレッシュなアロマを持つS-IPAとしてあり。

2019/01/04(ビアテイスターH氏によるテイスティングコメント)

マンゴーなどの南国フルーツフレーバー。最初は意外に○○ベリーっぽさも感じた。モザイクと比べるとこちらの方がシャープでキレが少しいい印象、また、渋みもあまり感じない。カーボは前回同様なので次に期待。モザイクもエクイノックスも印象は近い気はするけど、モザイクの方が主張が強いイメージ。未熟臭?(気のせいだと思う)

■UBL-040 S-Mosaic Prototype

2018/12/30

アロマは非常に明瞭なトロピカルフルーツ感。前回のものは非常にマンゴー感が強かったが、今回はみずみずしいシトラス感もある。ボディはちょうどよい。非常にドライなはずだが、オーツと小麦によるシルキーさに加え、モザイクのフレーバー由来の甘さが加わって、非常に豊かなボディを感じる。エキノックスにあったような、後味がストンと落ちるような物足りなさもない。うまい。ちゃんとセッションになっている。やや苦味が強く、全体のバランスから独立しているように思う。IBUは40以下ぐらいで調整してみたい。しかししばらくすると、渋みが出てくる。

2019/01/07(ビアジャッジO氏によるテイスティングコメント)

【香り】

香り高いぶどう果汁、エキノックスのと似てるが、渋みは感じられない。ただ微かに傷んだ果実のような印象。贅沢を言えばもっと弾けるようなアロマが欲しい。少し埃っぽい紙臭(これと混じって傷んだように感じられたのかも?)

【飲み口】

後味の渋みがエキノックスより強い。いい苦味、モルトと調和してる。

・くどいようなホップの甘さはなく、かなりドリンカブル

・香りでの渋さがない点はエキノックスよりかなりいい印象。ただ飲み口での渋みは強くなってる

・モルトとホップの苦味、フレーバーのバランスがめちゃくちゃいい。セッションIPA!!って感じがする

・挙げてるオフフレーバー(酸化、アストリンジェント)以外は特に感じられない

■UBL-040 S-Mosaic Prototype

2018/12/31

明瞭なトロピカルアロマを強く感じる。香りに起因して甘さすら誘起する濃厚さ。ボディは完璧。シルキーかつくどさがない。ザセッション。フレーバーもよし。しっかりとした複雑味があって、苦味とのバランスが取れている。

2019/01/13

赤ブドウ、グレープフルーツ、マンゴーのようなアロマ。カーボネーションと泡持ちはあまり良くない。飲むとみずみずしいトロピカルフレーバー。どんどんスイスイ飲める。後味にやや渋みと独立した苦味を感じるので、これを改善すれば一つの到達点。

2019/01/20(ビアジャッジO氏によるテイスティングコメント)

【香り】

ぶどうの甘味、渋み。瓜。ミルキー。

【飲み口】

カーボ弱め。アストリンジェント。強い苦味。ぶどうの甘味、渋み。

・このシリーズ?で毎回感じるぶどうが好き。柑橘とバランス取ればいっぱいしゅき。

・全体的にドライテイスト。もう少しモルトの甘みがあった方が、ホップの苦味やオーツのマウスフィールにマッチする。小麦多いから?

・カーボは弱いけど、飲み込んだ時の炭酸感とともにホップフレーバーが爆発する。カーボ改善でビッグバンへと発展する。

多くの方に飲んで頂き、そしてコメントを頂けて本当にありがたい。以上のテイスティング結果に基づきいろいろ気づきとかをまとめる。

改善点とか

■渋さ(Astringency)が強い

これは前回のWeizenシリーズにも共通する事で、スパージングのやり方が悪かった為である。既に前回のWeizenシリーズのテイスティングを行った際に原因と対策は纏めているので、次回はそれに基づいて雑味と渋みを出さないマッシング、スパージングを行いたい。

■カーボネーションが弱い

人生初の強制カーボネーションであったため、勝手がわかっておらず、かなり弱いカーボとなってしまった。2GVを割っているのではないだろうか。カーボネーションが弱いとアロマの開きが悪化するため、IPAとして大変もったいない仕上がりになってしまう。改善としては、カーボネーション工程での温度上昇を見越したガス圧設定をすることだろう。シェイキングによるガス注入では最中の温度上昇がかなりあるため、初期温度から計算される理論ガス圧の1.2~1.3倍くらいの値に設定してシェイクするとちょうど良さそうかもしれない。(この辺はトライアンドエラーなところがありそう。

■苦味が強い

非常にドライな仕上がりは悪くないが、結果として苦味が浮いてしまった。ボディがもっとあればバランスが取れていたかもだが、このシリーズではIBUは40かそれ以下に調整するとバランスが良さそうだ。

■もう少し甘みが欲しい

ややドライに仕上がりすぎた。これはこれでキレキレSessionなので良いのだが、個人的にもっと甘みが欲しい。じかいはもう少し発酵度が低い標準的なイーストを使用してみよう。また、今回使用したCarapilsの代わりにCrystal C15あたりを使っても良いかもしれない。(というか、Calapilsを入れてもボディが甘くなった試しがあまりないことに気づいた


発見など

■全てに共通するシャインマスカット感

面白いことにすべてのバッチで明瞭なぶどう感、それも非常にみずみずしいシャインマスカットのようなアロマがはっきりと感じられた。レシピで共通している部分はモザイクを使ったビタリングまでとWLP-090を使った発酵工程なので、それらが相まってこのアロマを作っ他可能性が有る。あるいはホップの種類は違えど、大量のWhirlpool Hoppingによって付与された各ホップに共通する成分を酵母が代謝し、ぶどうのようなアロマを形成した可能性も考えられる。この解明のためには、一度しっかりBiotransformationについて勉強してみないとダメな気がしている。