Mk.3

「アリエナイ理科ノ工作」にてPOKA氏が開発した消火器流用エグゾーストキャノンの再現を試み製作した物です。内部の構造等はほぼ紙面に掲載されていた機構を模擬してあります。構造としては二重筒式に分類されます。

紙面に大まかな内部機構は掲載されていたものの、詳しい工程等は記載されておらず、また必要となる部材や加工は当時の環境では困難を極めており、当初は作る気はありませんでした。しかし2009年5月のMake:Tokyo Meeting 03にて、著者であるPOKA氏による消火器キャノン実機の実射を目の前で見て、これはもう実際に作るしか無いと確信し、製作にとりかかりました。

物理部時代の夏休み2ヶ月を費やしなんとか完成させました。

材料と工具達。この当時は当然旋盤等の工作機械は手元に無く、唯一ある工作機械らしいものはボール盤のみでした。後はドリルやディスクグラインダー、そしてヤスリを用いて気合で部品を作っていきます。

まずはピストンを作っていきます。まな板を自在錐で円形に切り出した後、ボール盤にネジ・ナットを用いてチャックし、ヤスリを当てて、旋盤の要領で外周を削っていきます。このピストンとシリンダーとのクリアランス調整が難しく、何度も試作を繰り返しました。

鉄板を切り出しヤスリで円形に整え、二重筒式における内シリンダーをシールするゴム板の支えを作ります。先ほど削りだしたまな板ピストンと合わせてピストンユニットが完成です。

ピストンユニットを収めるシリンダーは足場単管をディスクグラインダーで切り出して製作します。

ディスクグラインダーでの加工は基本的にヤスリ作業とのセットになります。加えて足場単管を用いた場合は、内面にある溶接の継ぎ目もヤスリで落とす必要があります。根気よく仕上げていきます。

ピストンユニットとシリンダー部が完成、内シリンダーと組み合わせると右の写真のようになります。シリンダー内部に収められたピストンユニットが高速で後退することにより内シリンダーが瞬間的に開放され、エグゾーストキャノンの排気動作が行われます。

排気動作について詳しくは次のページが参考になります→二重筒式

次はフランジを切り出します。持てる工具はディスクグラインダーとヤスリのみ。気合で進めていきます。

ディスクグラインダーを用いてメインチャンバーである消火器とフィッティングさせます。外周の切削が終了したらフランジの穴をボール盤で空けます。

外周はディスクグラインダーでサクッと削れるので楽なのですが、内周はそうは行きません。ドリルで穴を連続して空けた後、その間をノミで叩き切るという滅茶苦茶な加工方法で内周を空けます。

この時使用したノミは犠牲になったというのは言うまでもありません。

内側の円を叩き切ったら棒ヤスリ一本だけを頼りにひたすら円形に整えます。

思い返せばこれを作っていたのは高2の夏。半端でない暑さの中、蝉の声と野球部の練習の声を聞きながらひたすら削ります。「そういえば時をかける少女も高2の夏だったな…」などと思いながら、一人、工芸室で死ぬ気でヤスリがけをしていました。

そうして完成したフランジはやはりかなり大きく、Mk.2と比べてもその大きさは圧倒的です。

先ほどのフランジと対になるフランジを作ります。こちらはメインピストンユニットを格納するシリンダーと合体させる方のフランジです。

再びグラインダーとヤスリを用いて気合で円形に切り出します。切り出した二枚のフランジを組み合わせると右のようになります。一組のフランジが完成した時はなんとも言えない達成感を感じます。

エアカプラを取り付け、底を切断した消火器に載せてみました。ここまでくると仮組みしただけで満足感が得られてきます。家に持ち帰ってシリンダーユニットとして仮組みしてみると、これまたテンションが上ります。

あとはそれぞれの部品をひたすら接合し、完成させるのみです。

消火器の口の部分に内シリンダーを固定、シーリングするためのフランジを内シリンダーである足場単管に接合します。当然この環状の部品も鉄板からの削りだしです。

内シリンダーとなる足場単管にはめ込み、ろう付けを行いました。足場単管への溶接についてはガスバーナー2本分の熱量が必須です。

シリンダーユニットにもろう付けを行いました。また錆止めとしてローバルRを吹き付けてみたりしました。あとはもう一方のフランジを消火器に溶接して完成となります。

完成したピストンユニット。とてもゴツくて力強い、そして機能美を感じる構造です。原案者であるPOKA氏はこの構造を発案からわずか二機目で完成させたということで、その設計センスには驚くばかりです。

Mk.1,2との比較。やはりMk.3の大きさは圧倒的です。

さて、待ちに待った実射です。

砂塵に対して打ち込んだ時の様子です。内シリンダーから排気される空気の動きがよくわかります。

地面に対して叩きつけるような挙動です。

当時使っていた、大層評判の悪かった英語問題集に向けて発射した時の様子です。様々な物を巻き添えにし、問題集を吹き飛ばすことに成功しています。

今までのMk.1,2は音は立派なものですが、打ち出される圧縮空気のパワーは大したことはありませんでした。その点Mk.3は充填容量とバルブの流量が圧倒的に向上しているため、このように物を吹き飛ばす、まさに「空気砲」としてのポテンシャルを有しています。

圧力を設計想定の1MPaまで上げて打ってみました。射撃音はさながら近くに雷が落ちたような強烈な爆音で、反響音もまさに雷のそれです。内シリンダーに足場単管という大口径のパイプを使っているためか、得られる音も低音が強く余裕を感じさせるような深みがあり、一度聞いてしまうと病み付きになります。やはりエグゾーストキャノン最大の魅力としてはこの「深く余裕のある爆音」と思うところです。

以上の製作工程と、実験動画をまとめた動画も当時制作していたので載せておきます。今見ると相当適当な編集と構成ですが、当時初めての動画編集ということでお許し下さい。BGMはYMOです。

「アリエナイ理科ノ工作」にて紹介されていたPOKA氏作の消火器キャノンを実際に製作したMk.3ですが、完成から6年経過した今でもその存在は特異なものとなっています。装置を構成する部品の一つ一つが無駄がなく、洗練されており、また荒削りでありながら頑丈なために、工事現場で使う工具のような無骨な信頼感を感じます。そうして生み出される爆音と強力な空気の塊は装置の見た目通りの頼もしい物で、一度目の前で見て聴いてしまうと忘れることができません。

今までに数十機のキャノンを作り続けていますが、このMk.3の様な信頼感と無骨さを持つ装置は未だに作れていません。自分の制作活動の原点であり、そしてこれからの目標です。

2015.1.13 yasu

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