Refrigerator Modification

2018/10/22 構想

発酵容器の温度制御に当たり、最もポピュラーなのが市販の冷蔵庫の改造である。この手法はワインセラー自作界隈でも一般的であり、最初に取り組むにあたって情報も豊富そうである。

現在、自室には家庭用の2ドア冷蔵庫に加え、酒専用冷蔵庫として1ドアのペルチェ式冷蔵庫が稼働している。ここで後者の冷蔵庫について発酵温度の制御に使えないか、過去に設定温度の上限と加減を測ってみたことがある。

上限値:14℃ 下限値:8℃

上限値に着目するとエール酵母の発酵温度の17℃~と比較して低すぎることがわかる。これは冷蔵庫に搭載されているサーモスタットの設定の問題である。という事でまずはこのサーモスタットを改造することで設定温度の引き上げを狙おうと思う。

今回の実験台となるペルチェ式冷蔵庫である。廃棄予定だったものを譲り受けたものであり、Sun Ruck社製の48Lペルチェ式冷蔵庫である。仕様には0~3℃で冷却可能と書いてあるが、そんなことはない。

という事で背面パネルを取り外し、駆動及び制御回路を確認する。ペルチェ式なため当然コンプレッサーは無く、制御回路と駆動回路が一体となった基板が取り付けられている。

コネクタ部を拡大したのが上図である。7つのコネクタのうち、NTCはサーミスタ、LEDは庫内照明電源、熱収縮チューブがかぶせてあるのがFAN電源である。残りの2つのコネクタのうち、CN2と書かれているものは庫内の温度調整用ボリュームに接続されている。またKとあるものはボリュームのスイッチに取り付けられているようである。

参考に庫内のコントローラ基板を上図に示す。Kのコネクタは左図のボリューム底面の二本の赤線と対応しており、ボリュームスイッチに接続されている。このボリュームスイッチがOFFになるとペルチェ素子の冷却とFANの回転が停止する仕組みになっている。

以上のように色々素人なりに回路を観てみたが、今回のサーモスタットは電子式である。安物のコンプレッサ式冷蔵庫であれば、機械式のサーモスタットが使用されていることが多く、その場合はオフセットの調整をすることで容易に設定温度を変更することができる。

ただし今回は電子式、設定をいじるには色々と面倒そうである。そこで今回は頭の悪い方法であるが、市販のサーモスタットを挿入することで温度制御を試みる。

という事で購入したのがこちら。ON-OFF制御のサーモスタットである。なんと価格は送料込みで1500円。しかもAmazonで翌日配達である。凄まじい時代が到来したものだ。

このサーモスタットに内蔵されているリレーを冷蔵庫の回路内部に挿入し、ON-OFF制御を試みる。

先述の通り、改造対象の冷蔵庫はボリュームスイッチがペルチェ素子&冷却ファンのON-OFFと対応している。そこで今回はボリュームスイッチをこのサーモスタットのリレーに置き換えることで温度制御を行うこととした。

今回のHackingの概念図を示す。庫内のボリュームスイッチにつながっていた配線(緑)を切断しサーモスタットのリレー端子に繋ぐ。これで冷蔵庫のON-OFFをサーモスタットが肩代わりすることになる。

サーミスタをどうやって冷蔵庫内に入れようかと考えたところ、元々ボリュームスイッチと冷蔵庫基板を繋いでいた配線を流用するとシンプルに解決できそうである。そこでボリュームスイッチから配線を取り外し、みの虫クリップをはんだ付けした。このクリップにサーミスタを取り付けることで冷蔵庫内部のサーミスタと外部のサーモスタットが接続できる。サーミスタは発酵容器にドブ漬けするため、洗浄のために取り外せると便利だ。また仮に故障した際も交換が容易になる。

2018/10/23 実装

という事で早速実装する。と言ってもニッパーとハンダゴテと熱収縮チューブで配線の繋ぎ変えを行うだけである。

まずは冷蔵庫の基板とボリュームスイッチを接続する配線を切断し、基板側と庫内側それぞれについて新たにラッピングワイヤをはんだ付けして延長する。基板側は冷蔵庫のON-OFFに、庫内側はサーミスタの接続に使用する。

最終的には冷蔵庫から追加で二組の配線が引き出され、これらをサーモスタットに接続すればOKである。

庫内についてもボリュームスイッチにつながる配線(赤)をボリュームから取り外し、代わりにみの虫クリップをはんだ付けした。ここにサーミスタを接続すれば改造は完了。非常に単純な作業である。

配線完了後、動かしてみた。リレーのON-OFF動作は想定通りで問題なさそうである。ここでタニタの温度計とサーミスタの測定温度を比較してみると、0.5℃程度の差があった。サーモスタット側で測定温度のオフセット機能が用意されていたため、それを利用して校正を行った後の様子が上図である。1500円のサーモスタットのくせに高機能だから侮れない。

これにて冷蔵庫Hackingは完了である。

2018/10/24 動作試験

早速、発酵容器の温度制御を想定して動作試験を行ってみた。

8Lの梅酒瓶に25.0℃の水を6L投入し、これを18.0まで冷却する。「冷却に要する時間」、「目標温度到達時のオーバーシュート」、「瓶内部の温度勾配」の3つの要素を確認する。

■冷却に要する時間

25.0℃→18.0℃の冷却に要する時間は3h 45minであった。これはピッチングからウォート発酵開始に要する時間よりも十分小さく、十分な冷却性能といえる。

■目標温度到達時のオーバーシュート

オーバーシュートとは目標値からの誤差のことである。今回、サーモスタットにより冷却がOFFされた後、17.8℃まで温度が低下した。熱容量が大きいだけあってオーバーシュートは小さく、発酵温度の制御程度であれば十分な性能だ。

■瓶内部の温度勾配

今回は攪拌なしで冷却を行ったため、冷却後は瓶の上下で温度勾配ができている。計測の結果、上面で18.8℃、底面で17.8℃、結果1.0℃の温度差が生じていることがわかった。1℃の温度勾配は発酵においては許容できる値であり、実際には発酵に伴う自然対流によってこの温度差は発生しないと考えられるため、考慮不要である。


ということで、発酵のための恒温槽としては十分な性能を備えている事がわかり一安心である。ここからの改良としては以下が挙げられる。

  • 温度の外部からの測定

今回はサーミスタを水中にドブ漬けしての実験だったが、衛生上、瓶の外周部にサーミスタを貼り付けて温度測定ができればより望ましい。そこで次回は瓶内部の液温と瓶外部の液温を比較してみて、両者の差を計測し、瓶外部の温度から温度測定が可能かどうか確かめてみる。極力薄いサーミスタを瓶に密着させ、周囲を発泡スチロール等で断熱してみるのが良さそうだ。計測の結果、温度差があった場合はサーモスタット側で補正するのもありだ。

  • 温度履歴の取得

Arduinoを用いてウォートの温度履歴を取得できるようにする。将来的にArduinoで発酵容器ペルチェ冷却器のフルスクラッチも構想しているため、基本的な取扱を覚えておきたいという意図もある。

2019/2/20追記 さらなる冷蔵庫改造

以上の記事では冷蔵庫内の配線を引っ張り出してリレーにつないでいたが、冷静に考えてそんな面倒なことはしなくても良い。

ということでもっと単純化してみた。

ということでもう一個サーモスタットを追加で買った。価格は相変わらず1600円と激安。そこに上図のようにゴミ捨て場に廃棄されていた電源コードを適当に接続している。要するにサーモスタット内蔵のリレーで直接冷蔵庫の電源をON-OFFしてしまう作戦だ。

もう一旦にはプラグを適当にはんだ付けする。しっかりと熱収縮チューブをかぶせておこう。

いい感じ。配線は観ての通り。100Vを取ってきて、それをリレー駆動電源につなぎ、被駆動対象を繋ぐコンセントにリレーを介して並列接続している。リレーがONになると被駆動側のコンセントに100Vがかかる訳である。サーモスタット本体に養生テープが貼ってあるのは100均で調達した強力磁石を貼り付けるためだ。

あとは、冷蔵庫のプラグをサーモスタットにつなぎ、サーモスタットのプラグを壁のコンセントに差し込むだけだ。磁石をつけると冷蔵庫の側面に張り付いて使いやすい。サーミスタのコードは直接扉のすきまから庫内に通す。冷蔵庫のシール部分は柔軟な素材で作られているため、コードが1本や2本通ったくらいでは冷気はもれない。

さて、実際に使用してみた感じだが、普通にこれで問題なく使える。発酵容器を突っ込んだ所、任意の温度で±0.2℃のレンジで温度制御が出来ることがわかった。発酵制御には申し分ない性能である。