ドライホッピングとはIPAの台頭により一般的になった手法であり、煮沸中ではなく発酵後のビールに大量のアロマホップを加えることでビールに圧倒的なホップフレーバを付与するテクニックである。しかしどうも最近、近年の世界的なクラフトビール業界の熱心な研究により、私が最初に手に入れた基礎情報と、現在の潮流とではその考え方と手法に差がありそうなことがわかってきた。そこで、Dryhoppingについて最新の情報を調べてみることにした。

ドライホッピングについて、従来から書籍やWebサイト等でよく言われる手法としては以下だ。

・一次発酵完了後、二次発酵容器にラッキングし、それからホップを加える

・18℃程度の温度で3~4日漬け込む

そして行うにあたっての要注意点は次がよく挙げられる。

・一次発酵中にホップを加えてしまうと、発生するCO2によって芳香成分が発酵容器の外へ抜けてしまう

・発酵中の酵母はホップオイルを吸着し、凝集して容器底部に沈殿させてしまうため、芳香成分はビールから抜けてしまう

・ドライホップをするならペレットよりも非加工のリーフホップがアロマの点で優れている


いずれもよく書籍や記事で見かける言説である。しかし、2017年あたりからのNew England IPAスタイルの発展に伴い、世界のブルワーはより挑戦的な醸造手法をあれこれ試し、従来の常識にとらわれない手法を確立してきている。とりわけ興味深いのが、一次発酵中にホップを加えることによるBiotransformation(生体内変換)の活用である。

私が初めてこの手法を知ったのは、NEIPAについて調べていたときのことである。BrewNoteさんのWebサイトに、NEIPAで用いられる醸造法とその背景が極めて分かりやすく紹介されている。

ニューイングランドIPAとは?:http://brewnote.tokyo/2017/07/newenglandipa/

この記事で、最も興味を引いたのが以下の表である。


出典:BrewNote, ニューイングランドIPAとは?

http://brewnote.tokyo/2017/07/newenglandipa/

以上の表ではホッピングスケジュールが示されており、中でも糖度が5-5.5の状態で加えるのが一般的American IPAと比べ異質である。ここで糖度5-5.5とはわかりやすい比重に直せば1.020-1.022である。すなわち、酵母がまだ活動している状態である。この手法の背景についても記述があった。それは発酵中に酵母がホップオイル中のアロマ成分を代謝し、異なる香りを持つ化合物に変換するということだ。

出典:BrewNote, ニューイングランドIPAとは?

http://brewnote.tokyo/2017/07/newenglandipa/

この図ではサッポロビール社の蛸井潔氏がまとめた論文を元に、芳香成分の変換がまとめられている。なおオリジナルの論文は下記の通りである。

クラフトビールの香りを geraniol代謝で 読み解く ーホップ香気成分の相互作用の解析 (3), 蛸井潔

https://agriknowledge.affrc.go.jp/api-agrknldg/media/pdf/show/id/2010890401

この結果に基づけば、酵母が活動中にホップを加えることで新たな特有の芳香成分が得られるということになり、二次発酵中にホップを加えるだけでは作り得なかったフレーバーを作り出すことにつながる。