Key Replication
光造形式3Dプリンターを用いた鍵の複製
光造形式3Dプリンターを用いた鍵の複製
光造形3Dプリンターで合鍵をDIYする。
ある日突然合鍵が欲しくなる時、ありますよね。合鍵といえば鍵屋に鍵を渡して作ってもらうものだが、時と場とシチュエーションによってはオリジナルのキーを渡せない状況もあるだろう。ということで今回はそんな合鍵を3Dプリンターで製作可能か検証していく。
今回はディンプルキーを対象として、検証のために錠前一式を用意した。構造が複雑なディンプルキーの合鍵を作ることができれば、大概の鍵について合鍵が作れると考えてよいだろう。
製作の流れは次のとおりである。
オリジナルのキーをノギスで採寸する
採寸結果に基づき3DCADでキーのモデルを作成する
スライサーソフトウェアを用いて、3Dプリント用の出力データを作成する
光造形3Dプリンターで紫外線硬化レジンからキーを出力する
イソプロピルアルコール(IPA)でキーを洗浄し、余分なレジンを除去する
紫外線ランプで紫外線を照射しキーを二次硬化させる
キーを採寸し、3Dモデルとの寸法差を確認し、必要に応じモデル寸法をオフセットする
錠に適合する寸法になるまで3-7の工程を繰り返す
文章に起こすとけっこう大変だが、実際大変である。ということで具体的な流れを見ていこう。
すべての出発点がこの工程である。ノギス、あるいはマイクロメータ等を使って幅、厚みはもちろん、穴のピッチや深さ、直径、面取りの形状等を正確に記録する。
採寸結果をもとに、忠実にキーのモデルを起こしていく。正確性が求められるのは錠と取り合う箇所のみであるため、それ以外の場所はラフでよい。
今回の検証に用いたキーでは穴深さは三段階に分かれており、それぞれ0mm、0.4mm、1.0mm。穴同士の間隔は3.3mmであった。また解錠に必要な3面の穴列について、それぞれの間隔は1.0mmであった。
鍵には当然設計ルールが有り、最初は複雑に見えたディンプルキーの構造も、一度そのルールがわかればモデル作成は極めて容易だ。3面について、「どこに穴があって」それが「深いか、浅いか」の外観だけでモデルを起こすことができる。
モデルができたら適当なフォーマットに変換し、スライサーソフトウェアに読み込ませ、3Dプリント用のデータを作成する。今回はプリンターとして光造形3Dプリンターを使用する。光造形式プリンターの出力プロセスはいつも使用している熱樹脂積層式3Dプリンターと比較してやや煩雑であるが、非常に高精細かつなめらかな仕上がりが得られるという最大のメリットがある。そのためディンプルキーのような複雑な構造を出力するには光造形式が最適である。
出力原理は今回割愛するが、出力設定は以下の通りとしている。
レイヤー高さ:0.05mm / 初期層数:3 / 露光時間 : 6 / 初期層露光時間 : 60
スライサーで作ったデータを現実に生み出す時が来た。今回使用するプリンターはAnyCubicのPhotonという光造形式プリンターである。光造形のエントリーモデルとして不動の地位を築いており、Amazonにて25000円程度で販売されている。今回は特殊なことはせずに本体付属のレジンを使用する。
最初は設定のコツが掴めず、丸一日試行錯誤に費やしたが、4度目の挑戦でようやく出力に成功した。造形に要する時間は2時間ほど。緑色のレジンを滴らせながら、槽の底からゆっくりとキーが姿を表していく様子ははなんともいえない趣があった。
光造形プロセスが面倒なのはここからである。精密な形状を得るためには表面に付着した余分なレジンを除去する必要がある。そのためIPAを洗浄液としてまずラフに表面のレジンを落とし(一次洗浄)、さらにIPAを交換の上、超音波を入射して未硬化のレジンを徹底的に除去する。
余分なレジンを徹底的に除去したら、紫外線ランプを追い照射してキー全体を中まできっちり硬化させる。紫外線ランプとしてはネイルアート用のランプを使用するのが便利だ。
これにて光造形プロセスは「一応」完了だ。
光造形プロセスは完了したが、ものづくりとしてはここがスタートラインだ。光造形3Dプリンターといえど、CADの寸法通りのものがキッチっと出るものでは決してなく、出力条件やレジンの種類、モデルの形状によって寸法はいくらでも変化する。そのため一度出力したあとに再び採寸を行い、モデルとの寸法差異をモデルにフィードバックすることで狙った寸法に寄せるプロセスが必要になる。
実際に今回出力したモデルの寸法を計測した所、厚みは+0.3mm、幅は+0.1mmで仕上がっていたため、それぞれモデルを小さくした上で再出力を行うこととした。
光造形のありがたいところは、プリントするモデルの数を増やしても造形時間が変わらないことである。ということでわずかに寸法を振って3種類まとめてプリントした。これはなんとも社会的にアレな光景だが、作っているのはあくまで「合鍵」であることを忘れてはなならない。
ということで、ついにキーが完成した。寸法的には3Dモデルと完璧に一致している。
それでは早速テストをしてみよう…
「ジャララララ!」と小気味よい金属音を立てながら、鍵はなめらかに鍵穴に吸い込まれていく!奥までキーを差し込み、鍵をひねると…
「カチャ…」
ということで、見事、光造形3Dプリンタを活用してディンプルキーの合鍵を作ることに成功した!検証のため穴の深さを0.2mmほど深くしたモデルも作ってみたが、いずれも完璧に動作したことから、穴深さの許容値はそれほど厳しくないようである。
これでいつでも合鍵を作り放題!めでたしめでたし……
以上の試行はすなわち、「鍵の外観さえわかれば第三者が鍵の複製を行える」可能性を示唆するものである!鍵の種類を外観から判断し、当該の鍵の設計ルールを押さえれば、あとは写真から穴位置と深さを割り出してCADに反映し、鍵屋を介さず実働する鍵を手に入れることができる。
特に今回検証した鍵については、鍵の上下関係なく解錠できるように、鍵の上下で線対称に同じパターンが設けられている。つまり、この写真の下半分の穴列は反対側の上半分の穴列と一致しており、この角度の写真一枚に解錠のための全ての情報が含まれているのである。
ここで3Dプリンタ自体を危険として避難するのは極めてナンセンスである。以上の検証内容を総括して言えるのはただひとつ、
ということである。