Oxygen-Free Kegging

ケグの使用にあたって気になるのはケグ内部の残留二酸化炭素だ。ケグは容積が大きいため、残留する可能性のある空気の量も多い。また充填後はカーボネーションのためにシェイクする工程も控えているため、ケグのガスパージは極めて重要である。

そこでケグを使用するに当たり、効果的かつ効率的なガスパージメソッドをAratani氏と共に考案した。

Aratani氏のブログにてビールの酸化防止に係る非常に興味深い下記の記事が翻訳されていた。

Avoiding Oxidation-ビールの酸化を避けるには-

注目すべくは発酵容器からケグへの移送に関わる項である。ケグ自体を殺菌液で予め満たしておき、それをCO2で圧送することでケグ内部の体積をすべてCO2に置換するという非常に単純明快な手続きが紹介されている。このやり方は思いつかなかった…

従来の自分のやり方では、ケグ内部にCO2を加圧充填し、しばらく放置したあとにケグ上部の安全弁を開くというものだ。CO2と空気の密度差を利用するこのやり方だが、不確実性が非常に高く、完全に空気を追い出せたという確証が得られないのが問題だった。そのため自分は何度も加圧、開放を繰り返しており、その際のCO2の消費量はケグ容積の10倍を超えていた。非常にもったいない非効率なやり方だったのだ。

というのも、コーネリアスケグの構造上の問題として、真空引きが出来ないという物がある。一般にコマーシャルブルワーでのケグのガスパージにあたってはPre-Evacuation法が取られる。これはケグ内部を真空ポンプで真空引きし、ケグ内部の気体を全て排出した後にCO2を充填するというやり方だ。この手続きを2回ほど繰り返すことで、ケグ内を完全にCO2で満たし、酸素を追い出すことが可能になる。当初、自分もこの手法を行おうと実験をしてみたのだが、コーネリアスケグの蓋は構造上真空引きには対応しておらず、蓋の部分からどんどんリークしてしまって全く真空が引けないのだ。


そこで、今回の手法である。手続きを具体的に示すと下記のとおりである。

  1. 極力高温の温水とスターサンで殺菌液を調製
  2. ガスラインにアスピレータをつないでケグ内部の殺菌液を減圧&脱気
  3. ガスラインにCO2ボンベをつないで加圧
  4. 安全弁を開きケグのヘッドスペースに溜まった酸素を置換
  5. リキッドラインを開き、CO2加圧してケグ内部の消毒液をリキッドライン経由で捨てる(ガス置換完了)


記事の内容をベースにさらなる酸素残留対策を取っている。具体的には①極力高温の温水を用いること、そして②アスピレータによる殺菌液の脱気だ。ガスの溶存量は溶媒の温度に依存し、液温が高いほど溶けていられる気体量は減少する。そのため極力高温の温水を殺菌水の調整に用いることで、残留酸素量を低減可能となる。またダメ押しでさらにアスピレータで脱気することで、殺菌水に含まれる酸素は限りなくゼロに近づくはずだ。これで万全を期した。いざ実践である。

1.極力高温の温水とスターサンで殺菌液を調製

殺菌液にはホームブルーの定番、Star Sanを用いる。無色透明無味無臭で洗い流す必要がないため、今回の手法に最適である。1Lに対して1.6mlで済むのもありがたい。


溶存酸素量を減らす観点で、最高温度のお湯を使用する。給湯器がある人なら100度のお湯を突っ込むのが最強だ。殺菌能力は当然液温が高ければ高いほど強くなるため、殺菌能力向上というメリットも期待できる。


ということで調整完了。高温の殺菌水で満たされた状態で暫く放置すれば、ケグの殺菌は完璧である。

2.ガスラインにアスピレータをつなぎ、ケグ内部の殺菌液を減圧&脱気

この工程がポイントである。試行錯誤の結果、ケグの蓋は裏返しで載せることでコーネリアスケグでの真空引きが可能になることが判明した。この状態でアスピレータで真空引きをすれば、内圧はどんどん下がり、高温の殺菌液は内部で減圧沸騰を開始する。減圧沸騰が発生した時点でもう残留酸素量はほぼゼロと考えて良いだろう。


10分ほど放置した後、蓋を外すとかなり液面が下がっていた。かなりの激しい沸騰が起き、ガスラインから徐々にリキッドが吸引されていった結果か、あるいは蒸気として飛んでいった分かもしれない。


液面が下がった分は、沸騰状態のお湯を追加することで補填する。沸騰工程を経て完璧な脱気が行われ、また殺菌液全体の温度も上がるため、一石二鳥である。

3.ガスラインにCO2ボンベをつないで加圧

ここでようやくミドボンの登場である。ガスラインにミドボンを接続し、2気圧程度まで加圧した後、静置する。

4.ケグ内部に残留した空気を置換

最後に忘れてならないのが、ケグ内部に溜まる除去不可能な空気である。この空気を除去するのはちょっとテクニックが要る。ということで下記に手続きを図解していく。

1.コーネリアスケグの雑な図解

2.ケグ内部を殺菌水で満たす

3.蓋を取り付けると、どうしても構造上丈夫に空気がたまる。この部分の空気をいかに除去するかということだ

4.ということでひっくり返す。こうすることで空気はケグ下部の液溜まり部に集まる

5.InletポートからCO2ガスを導入し、液溜まり部のCO2濃度および圧力を上げていく。イメージとしては空気をCO2で希釈する感じである

6.圧力をあげたらOutletポートを勢いよく開いて液溜まり部のガスを一気に排気する。以上のCO2導入→空気希釈→CO2-空気混合ガスの排気工程を繰り返すことで、次第に液溜まり部の空気濃度は下がっていき、無視できるレベルになると考えられる

5.リキッドラインを開き、CO2加圧してケグ内部の消毒液をリキッドライン経由で捨てる(ガス置換完了)

最後の工程である。リキッドラインを開き、ゆっくりガスを導入して殺菌液とCO2を置換する。液体を全て追い出したあとはしばらく放置し、ケグ底部に内面に付着していた液体が集まるのを待ち、もう一度リキッドラインを開いて液体を排出しておくのが確実だ。

ちなみに図解するとこうなる。

液溜まり部にはどうしても回収できないリキッドが残るが、無視できるレベルである。そのためのスターサン

6.置換完了

ということでガスパージは完了だ。見た目には何の変化もないが、ビールの品質にとっては素晴らしい変化が生じているはずだ。

7.ビールの移送

ガスパージが完了したケグへ早速リキッドを移送しよう。移送には3Dプリンターで製作した梅酒瓶MODを使用し、CO2で圧送する。これで移送工程での酸素混入は仕組み上発生しない!

ケグ詰めにあたってはチューブ内の酸素についても注意をはらい、全てCO2ガスないしリキッドで充填したのちに各コンポーネントに接続することを徹底する。またケグについては残圧のパージを徹底する(パージしないでボールロックを接続して、発酵容器に勢いよくガスが流れ込んでいろいろ大変になったことがある。

ケグ詰めが完了したらCO2ガスをケグに接続して、強制カーボネーションを行う。必要なガス圧については種々のHomeBrewing計算機を用いて決定するが、経験上やや高めの方が良い気がしている。カーボが足りないビールほど悲しいものはない。

8.瓶詰め

ケグなのでそのままサーブできるのだが、イベントなどの際には瓶詰めをする。ここでも3Dプリンターで自作したカウンタープレッシャボトルフィラーを使用し、酸素フリーな瓶詰めを実現している。HomeBrewでここまでやる人はなかなかいないと思うが、こうすることでなにかトラブルが生じた際のトラブルシューティングにおいて、酸化という要素を除外できるというわけだ。