Mk.20
Code-Name : Exhaust Pilebunker
杭加速と圧縮空気排気。
一つ一つは単なる火だが、2つ合わされば炎となる。
炎となったエグゾーストパイルバンカーは無敵だ!!
2021年夏、突如として発令された「スイカ割り工作コンテスト」
どうやら、スイカを割る機械をつくればいいらしい…
昨年の水鉄砲自作コンテストではエグゾーストキャノンのメカは封印したが、今回ばかりはそうもいっていられない。
開発コードネームは「エグゾーストパイルバンカー」8年間の構想を経て、ついにあのガジェットを開発する時が来た。
■開発コンセプト
その後、3DCADを用いた詳細設計をへて、ついに成立性のある設計が確立しました。スイカ割り工作コンテストに挑むにあたり、巴波重工のコンセプトは「一撃で、確実に、鮮やかに」。一撃必殺の決戦機械で、パワフルながらしっかり割れてしっかり食べられる。そんな機械を開発する。
ではどんな機構で行くか。実はアイデア自体はすでに何年も寝かせておいたものがある。
そのコードネームは「エグゾーストパイルバンカー」
全人類の至近距離専用一撃必殺兵器「パイルバンカー」の駆動機構としてエグゾーストキャノンを適用。圧縮空気の力で強力に杭をドライブするとともに、余剰の圧縮空気を杭先端から排気する。
2013年頃より耐ゾンビ兵器として銃弾が利かない対象用に検討を進めていた本装置だが、機構面での課題があり実現はしなかった…
しかし、今は違う。
自分には今までのエグゾーストキャノン開発で確立した新たな機構アイデアや、転職で手に入れた新たな設計テクや機械部品のレパートリーがある。これらを集結させ、今再びエグゾーストパイルバンカーを構想した時、一つの実現可能な機構が見えてきた。これならいける!!
強力な杭のインパクトでスイカに亀裂を導入し、さらに杭から放たれる圧縮空気で内部からスプリット。完成すれば一撃で、確実に、そして鮮やかに、スイカを割ることができるはず!!
巴波重工 | UZUMA HEAVY INDUSTRIESとして第20機目のエグゾーストキャノンMk.20又の名をエグゾーストパイルバンカー。
7年ぶりのフルメタルキャノン開発がついに始動する。
■設計
今回のアクションを整理すると次のとおり。
①圧縮空気充填
②発射トリガー
③圧縮空気がパイルに急速供給され加速開始
④加速された杭が終端に到達、急停止
⑤杭の先端から余剰の圧縮空気が排気
①②③までのアクションは二重筒式のエグゾーストキャノンそのもの。一方従来にないアクションである④⑤をいかに再現するかが機械設計のポイントとなる。
ということでまずは紙ベースで機構を検討。
その後、Fusion360を用いて3D詳細設計。ちなみに今回始めてスケッチベースのトップダウン設計を取り入れている。
以上の検討を経て、成立するメカが確立した。
エグゾーストパイルバンカーの構造図は上記の通り。装置は主として次の部品から構成される
・ラジアルインテークバルブ(以下RIV)
パイルのスイッチングを担当。外部エアで制御され、ONになるとエアチャンバ内の圧縮空気をパイルユニットへ高速で供給する高速大容量バルブ。
・パイルユニット
シリンダーとピストンそしてパイルからなるメインユニット。余剰圧縮エアの排気を行うため、パイル内部は空洞となっている。
・シールブッシュ
パイルのセンタリング、摺動保持、シーリング、ダストシール、そしてパイルユニットとエアチャンバの固定を担う重要部品。
・インパクタ
対象部と相対する衝突体。パイルと同じく中空であり、周方向に排気口を有する。このインパクタを介して圧縮エアが開放される。
・エアチャンバ
圧縮空気の保持を担う。
では実際のアクションを見ていこう。
1.圧縮空気導入
エアチャンバおよびラジアルインテークバルブ(以下RIV)に外部から圧縮空気を供給する。ここで黄色い矢印が圧縮空気の流れ、赤の矢印が圧縮空気によって生じる荷重の向きを表している。
圧縮空気が導入された段階では、すべてのピストン、パイルはこの位置で固定され、動き出すことはない。
2.RIVバックチャンバー減圧
装置の発射トリガーとしてRIVユニットのバックチャンバーを急減圧する。これによってRIVピストンには右向きの荷重が発生し、急速に右へ加速を始める。
3.RIV全開→パイル加速開始
やがてRIVのピストンは右端に到達し、これによってエアチャンバの圧縮空気はRIVユニットを介して急速にパイルユニットへ流れ込む。
こうしてパイルには瞬間的に左向きの荷重が発生。加速を開始する。
4.パイル加速
RIVを介した圧縮空気の流入により、猛烈な加速を受けながらパイルが左へと飛び出す。
5.パイル停止&圧縮空気排気
パイルが左端に到達すると、パイルおよびパイルシリンダー双方に設けたポートが接続。チャンバー内部の余剰圧縮空気がパイル内部、インパクタを通って瞬間的に大気へ開放される。ここでパイルはシリンダー左端の圧縮空気をさらに圧縮し、これがエアクッションとして作用することで、衝突することなく停止する。
以上がエグゾーストパイルバンカーの動作原理である。RIVユニットの減圧をトリガーに、すべてのアクションがシーケンシャルに展開。杭加速と圧縮空気排気が同時に展開するいまだかつて無い設計となっている。
そして地味に最重要項目なのが5の停止アクション。エアクッション機構無しで高速のパイルを受け止めた場合、間違いなく装置は自壊してしまう。実際、過去に製作したエグゾーストキャノンにおいても、メインピストン停止時の衝撃で部品が降伏、変形する事例は少なくない。今回はパイルに速度を与えるのが主目的であり、その運動エネルギーは従来機と比較して圧倒的に大きく、何らかの対策は必須であった。
今回設計した機構はエアシリンダーのエアクッションとほぼ同様であるが、大きく異なるのが蓄積された圧縮空気を更にピストンで圧縮する点である。通常のエアクッションは大気圧の空気を圧縮して反力を得るが、今回のような大エネルギーのパイルを停止させるためには必要な停止長が大きくなりすぎる。これを圧縮空気とすることで反力を飛躍的に高めることができ、装置のコンパクト化が可能となっている。
エアクッション部の設計にあたっては、パイルが獲得した運動エネルギーがすべてクッション部気体の断熱圧縮に使用されるとして、その際の気体の体積変化から停止長を求めている。
■製作
いよいよ製作である。旋盤、フライス盤、ボール盤、溶接機、はたまた3Dプリンターと、使えるツールは全部使って気合でやっていく。
■ブッシュ
本装置において最も複雑な部品がこのブッシュである。
消火器と内部ユニット一式の取り合い部品であり、また加速されたパイルの停止時、衝突のエネルギーを受け止めなければならない可能性もあり、素材には加工性と強度を両立したA7075(超超ジュラルミン)を選定。軽量なアルミ合金でありながら、強度は炭素鋼と同程度という恐るべき素材である。高価な素材とよく言われているが、価格はA2017(ジュラルミン)の1.5倍程度であり、そこまで高価というわけでもない。難点として耐食性の低さがあげられており、防錆スプレーを吹くなどして錆には気をつける。
ブッシュには消火器との取り合い以上に重要な役割があり、一つはパイルの摺動保持、そしてもう一つはシールである。この実現のため、ブッシュにはドライベアリング、そしてパッキンを取り付ける。
ドライベアリングは摺動専用の素材でできた円筒である。これをブッシュ内部に圧入することで、高い内径精度と摺動性、耐摩耗性が一度に得られる。ただし、圧入側の穴が部品の要求通り出来ていないと本来の特性を得ることができない。内径はH7公差が要求され、今回のφ34に対してはφ34+0~0.025mmの範囲。最低でも0.01mm単位での計測ができるデジタルノギスを使い丁寧に加工していく。
穴が加工できたら、次は圧入である。挿入部にはかじり防止の為に予め潤滑スプレーを吹き付けておき、ドライベアリングを穴にあてがい、万力やボール盤などを用いてゆっくり垂直に押し込んでいく。失敗するとすべてが台無しなので、慎重さが求められる工程であった。
シールについて、従来ならばとりあえずOリング!というところだが、今回はやや特殊である。というのも、パイルは外部に露出するため、パイルリロード時にこの表面に異物が付着していると、シールを傷つけリークの原因となるためである。そのため通常、このような軸のシール部位には圧縮空気のシールとは別に、「ダストシール」と呼ばれる異物の侵入を防ぐ専用のシール部品が必要となる。
今回は調査の結果、圧縮空気のシールとダストシールを同時に行えるシール部品を発見。一つの部品に2つのシールリップを有する非常に便利な部品であり、これ一つで今回のアクションを成立させることができる。取り付け穴は相変わらずH7精度であるため、ここも慎重に加工。このパッキンを保持するための環状フランジも別途旋盤で製作した。
ということでブッシュが完成。パイルの摺動保持、シール、内筒、消火器との取り合いなど、一つの部品に多くの機能が詰まっている。
■RIV(Radial Exhaust Valve)ユニット
Radial Intake Valveとは、今回のパイル加速を担うユニットであり、エグゾーストキャノンの機構を凝縮した物となっている。ケーシング、ケーシングカバー、そしてピストンの3部品から構成され、ケーシングカバーに設けたポートを介して圧縮空気の流れを制御する。構造的にはエグゾーストキャノンMk.3のピストンユニットと同等のアクションである。
ピストンは摺動性に優れるポリアセタールで製作。旋盤でOリング溝含めサクサク削る。ケーシングとケーシングカバーはA2017の丸棒から削り出し。ブッシュと同じく周方向にいくつも穴あけを施す都合上、やや神経をつかう加工である。ピストンが摺動するシリンダー部には排気ポートが6つ形成されるが、このエッジ部はバリ取りツールで念入りに面取りを施しておく。この作業を怠ると、スムースなピストン摺動が妨げられるどころか、Oリングのむしれや切断など故障の原因となるためである。
■パイルユニット
今回の主役がこのパイルユニットである。圧力を受けて加速するというだけではなく、余剰のエアをパイルを介して排気するというアクションが課せられている。部品は2つからなり、一つは本体から射出されるパイル、そしてもう一つがこのパイルの加速と圧縮空気のスイッチングをになうパイルピストンである。
杭の高速化の観点で、必然的に素材は軽量なアルミ合金となる。パイルの素材はA5056のt3丸パイプ。買った時点でそこそこいい外径精度で仕上がっているため、そのままドライベアリングやシールと摺動させられる。ここまで長い部品を精度良く仕上げるのは卓上旋盤ではなかなか難しい。パイプの片方にはエアの通り道となるφ10の穴を等間隔に6つ、割出し台とフライス盤を用いて穿孔する。最初はスポッティングドリルでガイドを作り、切れ味の良いφ8ドリルで貫通。最後はφ10エンドミルで丁寧に仕上げる。
パイルの先端には後述するインパクタ取り付け用の穴も設ける。
パルピストンはA2017の丸棒を加工して製作。内部にはパイルとの嵌合用の穴を設け、外周部にはOリング溝を2つ設けている。エグゾーストキャノンのようにピストンを高速駆動させたい場合、JIS通りのOリング溝設計では潰し代が大きく、摺動抵抗が大きすぎる場合が多々あるが、その際は具合を見ながら溝深さを追い込む、あるいは内径の小さなOリングを使用するなどイレギュラーな仕様にしている。今回はあえて3サイズ小さなOリングをはめ込むことで、シール性を維持しつつも摺動抵抗をギリギリまで抑えることとした。
このパイルピストンにも放射状に6つのφ10穴を設けたら、パイル本体と接合。接合には金属同士の接合に定評のあるセメダインのメタルロックを使用。パーツクリーナーで徹底的に脱脂の上、両者に塗布。ハンマーで奥まで打ち込んで一晩放置したら完成である。
■インパクタ
パイル先端に取り付け、杭加速のエネルギーを対象に伝達するために重要な役割を担うのがこのインパクタである。余剰圧縮空気の排気もこのインパクタを介して行われる。
インパクタの先端にはスイカを割るためにチゼルを設けた。t3の鉄板を切断し、先端はグラインダと砥石でシャープに仕上げ。チゼルホルダーは3Dプリンタで製作している。切削加工では難しい曲面を用意に出力できるので非常に便利だ。パイルとのインターフェースはA2017丸棒からの削り出し。エア放出用に6つのポートをフライス盤で設けている。
■エアチャンバー
空気タンク兼本体フレームに使うのがおなじみ、消火器である。消火器は耐圧容器として設計され、底部は内圧に強い球状、内面には非常に分厚い防錆塗装がなされており、エアチャンバーとして最適である。
RIVユニットとの接続のために必要なのは、最下部への穴あけのみ。ケガキをして、ポンチをうち、小さいドリルから徐々に穴径を拡張し、最後はリーマできれいな円形に仕上げる
RIVユニットのケーシングカバーにφ6チューブを接続し、ここに隔壁ユニオンを取り付ける。これを消火器内部から先程設けた穴に差し込み、外側から付属のナットで締め上げることで、消火器内外は隔絶され、またチューブと外部も完全に隔絶することができる。
このような構造を取ることで、消火器本来の耐圧構造を活かしつつ、外部から内部のRIVユニットを操作できるというわけだ。
これ以外にも圧縮空気充填用ポート、圧力計ポートをそれぞれ設ける。下穴を設けた後に1/8の管用タップで仕上げる。
残る加工はグリップ類の取り付け。腰だめで打てるようなイメージに仕上げていく。トリガーハンドルは鉄のフラットバーと木の棒から形成。
後端のグリップについても同様の素材で成形。こちらについては直接消火器に溶接して固定。木のグリップはベルトサンダーで形を整え、握りやすさは完璧である。
■組み立て
ついにすべての加工が完成。ようやく組み立てである。
内筒後端にRIVユニットを取り付け、さらにパイルユニットを挿入、前部にブッシュユニットを取り付けたらコアユニットは完成。それぞれの接続時には潤滑のためにシリコングリスを十分に塗布しておく。
これを消火器内部に挿入し、先述の隔壁ユニオンを底部に固定。最後に消火器本来のユニオンを手で締め上げれば、固定は完了となる。消火器本来の固定機構をそのまま流用しているので、取り付け取り外しが極めてスムースである。
最後はエアーの配線。すべてワンタッチ継手とφ6チューブで構築する。
コンプレッサーからのエアは一旦3ポート弁でせき止められ、これをONすると2方に分岐。片方はRIVユニットに、もう片方は消火器チャンバーに送られる。この動作により、RIVユニットのピストンは充填位置にシフトし、消火器内圧が上昇する。内圧は消火器側面に取り付けた圧力計を介してモニタリング可能。弁のトリガーを押し続ける時間に応じ圧力は高まり、トリガーを離すことでパイルが起動する仕組みである。
■エグゾーストパイルバンカー、完成
わずか一ヶ月の開発を経て、ついにエグゾーストパイルバンカーが完成した。
外観は一見荒々しく、レジスタンスがスクラップを組み合わせて構築した特攻兵器のような趣である。
エアコンプレッサーからのホースを本体に繋ぎ、トリガーを押し込むと、内部に圧縮空気が充填され、圧力計の値が上昇していく。充填が完了したら、しっかり構え、トリガーを離す。
その瞬間、目には捉えられない速度で杭が発射!!同時に激しい爆音を伴いつつ先端から6方に余剰の圧縮空気が排気!!何だこれは、かっこよすぎるぞ…!!
凄まじい速度で飛び出す杭について、計測された獲得速度は約81km/h。加速に要する時間はわずかに8ミリ秒と驚異的な加速度である。しかしながら動作において、金属同士の接触は生じておらず、エアクッション機構が適切に動作していることがわかる。何回動かしても壊れない。これこそ機械設計における大きな喜びの一つである。
先端から6方に放たれる余剰エアは断熱膨張によって霧となって可視化され、さながらリアル重火器におけるマズルフラッシュのよう。そのパワーは強烈で、周囲においたオブジェクトを薙ぎ払い、通常のエグゾーストキャノンと遜色ないパワーである。
これはヤバいものを作ってしまった…
■パイルバンカーでスイカ割り
人類史上初、パイルバンカーでスイカを割る日がやってきた。
机にスイカをセットし、パイルバンカーに0.9MPaの圧縮空気を充填。覚悟を決めてトリガーをリリースした瞬間、爆音とともにスイカ果汁の霧が眼前に出現。霧が晴れるとスイカは見事に分割している!実験は成功である‼!
○スイカスローモーション(美しすぎるパイルバンカースイカ割り!)
あまりにアクションが早すぎたため、スローモーション映像を確認した。トリガー後、スイカにインパクタが侵入。すると先端のチゼルによって縦溝が形成され、インパクタ側面から放たれる圧縮空気によってさらに4つにスプリット!!そしてまたたく間に爆散し、あとに残ったのはスイカ果汁の霧と見事に分割された大きな塊が…!
完璧に!動作している!!!
○エグゾーストパイルバンカー(完璧に割れたスイカ。食べやすい大きさにしっかり割れるのもメリットだ!)
■終わりに
技術と時間と体力を全投入し、なんとか1ヶ月で最高にクレイジーなロマン武器が完成した。スイカ割りはもちろん、ゾンビパンデミックが発生した折にも大変頼りになる実用品である。
従来のキャノン開発から一歩進んで、今回はエグゾーストキャノンをパワーソースにしたガジェットだが、またもやその圧倒的ポテンシャルを再確認することが出来た。キャノン工作の可能性は無限大である。
2022/05/24 yasu