Wearable Air Tank

背景

エグゾーストキャノンの最大の弱点は、射撃に圧縮空気が必要なことだ。最初期においてエグゾーストキャノンの射撃には自転車の空気入れが用いられ、数十回の高圧ポンピングの末、ようやく一回の射撃を行うことができた。エアコンプレッサを導入することでこの重労働からは開放されたものの、エグゾーストキャノンの使用可能範囲はコンプレッサに接続されたエアホース全長に制限されるため、実戦を想定した場合にエグゾーストキャノンはあまりに制約が大きい装置であると言わざるを得ない。


一方、エグゾーストキャノンシステム自体の高度化も進んでおり、従来の単発式に加え、Mk.11に代表されるセミオートマチック機構を有する機体を製作することが可能になってきた。ここで新たに課題になるのが圧縮空気の供給システムである。セミオートマチック機はエアコンプレッサの使用を前提としているが、使いやすいサイズの民生用コンプレッサのタンク容量では長時間の仕様に不足がある。そのため、現在のセミオート世代、そしてこれから来るであろうフルオート世代に対応したエアー供給システムとして、空気容量の増大を目的としたサブタンクの導入が求められている。


以上2つの背景から、可搬式のサブタンクを開発することとした。

コンセプト

開発コンセプトは以下の通りである。

・エアコンプレッサから切り離しての単独運用が可能な系統とする

・機動性を考慮し、タンク自体を背負うことができる、すなわち「ウェアラブル」な構造とする

・使用状況に合わせ、出力される圧縮空気圧力を調整できる系統とする

・コンパクトに収納でき、かつ短時間での展開、収納ができる構造とする


以上のコンセプトに基づき、系統図を作成した。

ウェアラブルエアタンクの系統図

図から分かる通り、2つの圧力容器をレギュレータを介して2つ接続する系統とした。常用するタンクは低圧側であり、レギュレータを操作することで「低圧ライン」から取り出す圧力を調整可能である。一方、非常時に備え「高圧ライン」も設けており、高圧タンクから高圧の圧縮空気をバイパスさせる事でハイパワーな射撃も行うことが可能だ。

高圧タンクは逆止弁を介してコンプレッサと接続されるため、コンプレッサとの接続を切るにあたって弁操作は不要であり、迅速な活動開始が可能になる。(エヴァンゲリオンにおけるアンビリカルケーブルと同様のイメージ)

製作

圧縮空気タンクには耐圧性に優れ、入手性も良い加圧式消火器を用いることとした。消火器は全て耐圧試験がなされており、また防錆塗装が内面に施されていることから、空気タンクとして非常に優秀である。入手性も比較的よく、ヤフオク等に賃貸に大量に配備された後に使用期限が切れた消火器が数多く出品されている。

(筆者が消火器を2本落札した際には出品者から連絡があり、更にたくさん在庫があるため、希望があれば同じ価格で必要数販売しますよとの連絡があった。)

今回は数多く出回っている消火器のうち、大型の20型を購入した。

加圧式消火器を分解する

購入した消火器が到着したので、早速分解していく。消火器のトップはネジで固定されており、直径が大きい。あればパイプレンチを使用するのが楽だが、上図のようにCクランプを用いても開けられる。その際、誤って消火器のレバーを押してしまわないよう、注意が必要だ。加圧式の消火器は一度レバーを押し込んでしまうと、構造上、消火剤の噴出を止めることはできないため、部屋が地獄と化す。

二本ともネジを外し終わった状態

内部の消火剤をビニール袋に回収

内部の消火剤はビニール袋にまとめて回収した。20型二本分ともなるとかなりの重量になるため、念の為ビニール袋は二重にしておいた。(適当に燃えないゴミとして処分したが、焼却炉に放り込まれた瞬間、圧倒的鎮火力が発揮されてしまったりしないだろうかと妄想していた。

消火器から取り外された内部部品等

取り外した消火器のヘッド部分には炭酸ガスボンベがねじ込まれている。加圧式消火器のレバーを握るという操作は、このガスボンベの封にピンを差し込んで破るという動作であり、封が空いたボンベから炭酸ガスがタンク内に充満することで、内部の消火剤を上図の細い管からホースへ送り出している。

ガスボンベはこの状態でレバーを握って内部のガスを処理してしまうのが良い。もったいないと感じる人は、消火器タンク内部を水で満たし、再びこのヘッド部分を装着してからレバーを引くことで水消火器とすることができる。別メニューとして内部にガソリンやらを入れて放火器にすることもできるが、それは相応の土地がある人間に限る。

炭酸ガスボンベを取り外した状態

分解が完了したら、次は改造作業に移る。処理が終わった炭酸ガスボンベはネジでヘッド部分に固定されているため、適当に回して取り外す。アルミ製のパイプも必要ないため、金鋸等で切り落としておく。

レバー部の取り外し作業

ヘッド部から部品を取り外した状態

黒のレバーはヘッド部にリベットで固定されているため、力技で取り外すしかない。今回はドリルで持ってリベットの頭を取り払った。

金鋸でヘッド部の余計な部位を切除する

今回は系統図に従い、空圧用の雌ねじを複数箇所形成する必要があるため、ヘッド部をフラットにするべく余計な箇所を金鋸で切除した。(今考えると、レバー部の取り外し作業はやらなくても良かった

タッピング作業

適切な下穴を開けたら管用ねじ規格の1/4インチのタッピングを行っていく。相手はアルミなのでサクサク切り込んでいける。タッピングを行ったら、消火器本体の改造作業は完了である。

限界まで水を張った状態の消火器

今回使用するのは中古消火器であるため、念の為に耐圧試験を行うことにした。空気で耐圧試験を行うと、耐えきれなかった際に爆発するため、非圧縮の水を使って試験する。消火器の口ギリギリまで水を満たし、そこに改造したヘッド部を装着し、強固に本体タンクに締め付ける。

耐圧試験の様子

タンクに圧力計とカプラを取り付け、その先にはロードバイク用のフロアポンプを取り付けた。ロードバイク用のポンプは一般的な自転車空気入れと比較し、高圧での充填が可能であり、1.5MPa程度までなら問題なく加圧可能だ。

耐圧試験時の圧力値

所有しているコンプレッサの最大圧力が0.92MPaなので、安全をみて1.5倍の圧力まで加圧を行った。試験の結果、リークは確認されなかったため合格である。このまま作業を進めることにする。

さて、肝心のウェアラブル構造だが、M2火炎放射器のような背負子に二本のタンクを乗せる形をとることにした。

M2火炎放射器(Wikipediaより)

背負子を作るにあたっては、当初パイプベンダー等を用いてアルミパイプを整形して作ろうかと考えていたが、難易度が高く、またパイプベンダーを新たに購入するとかなり高額になってしまうため、素直に鉄製アングルをベースに組むことにした。幸いアングルは大学のゴミ捨て場に無尽蔵に破棄されているため、入手には困らない。重量はかなり重くなってしまうが、構築が楽で製作に当たり確実性がある。

肝心の背負子の構造であるが、この時はMakeイベント直前で、あまりに時間の余裕がなかったため作業中の写真が残っていない。

という事で次で早速完成品の解説に移る。

完成

という事で完成してしまった。ネジと鉄製アングル材、Uボルト、塩ビ管等を用いて構成している。ほとんど全ての部品が鉄製であるため、総重量は15kgを優に超えている。

観ての通り、アングルで骨格を組み、そこに消火器タンクをUボルトで固定している。背負子底部には消火器同士が触れ合わないよう、スペーサとしてジグソーで切り出した合板を挟んでいる。

上部を拡大した写真

消火器タンクのヘッド部には合計5つのポートが設けられており、それぞれに配管類が取り付けられている。それぞれの系統については後述するとして、まずは背負うためのセットアップを説明していく。

背負子を形成する上で最も悩んだのが、このベルトである。参考に背負子自作の記事を観ていると、どうやらこの部品は「背負いベルト」という名称らしい。普通のバック等に取り付けてリュック化することができるという代物だ。今回の大重量のユニットにも使用できそうなものとして、いろいろ探した結果、プロユース向けのカメラ機材メーカーであるthinkTANKが出しているバックパックコンバージョンストラップスが完璧であることがわかり、即注文した。

ストラップをユニット上部の塩ビ管部に取り付ける

ユニット本体への取り付けは極めて簡単だ。まずは上部に設けた塩ビ管部分にストラップを固定する。留め具はかなり大きく、また布も非常に丈夫なものが使われていて信頼感がある。

ストラップの下部側二本をアングルに固定

あとはストラップの下部側二本についている金具をアングルの穴に引っ掛けるだけである。極めて洗練された工程で、このタンクのことを考えて設計されたような製品だ(thinkTANKだけに)

高圧タンクと低圧タンクを繋ぐ系統を接続

あとは高圧タンク、低圧タンクに残っていたチューブ継ぎ手に上図のようにホースを接続し、間にレギュレータを噛ませる。この胸の位置に来るレギュレータを操作することで出力圧力を調整する。圧力は同じく胸元の圧力計で常に監視できる。

接続時のセットアップ

各ホースを接続した状態が上図である。エアコンプレッサからの圧縮空気は左端のソケットに接続され、逆止弁を介して高圧タンクに充填される。逆止弁が挟んであるため、高圧供給ラインをパージしてもタンクから空気が漏れ出すことはない。わかりやすく言えばエヴァのアンビリカルケーブルのシステムである。

高圧タンクと低圧タンクは胸の位置にあるレギュレータを介して接続されており、減圧された圧縮空気が右の低圧タンクに充填される。そして高圧、低圧タンク共にカプラが取り付けられており、それぞれ非常用高圧ライン、常用低圧ラインを接続する。

ここで、それぞれのラインについて説明するためには、キャノンとの接続部ユニットをまず説明する必要がある。


ウェアラブルエアタンク キャノン接続ユニット

エアタンクから伸びる二本のエアホースはこのユニットを介してエグゾーストキャノンに接続される。構成としてアセチレントーチのような構造だ。常用低圧ラインはエグゾーストキャノンと常時接続状態にあり、通常キャノンへはこのラインを介して低圧の圧縮空気が供給される。

だが、である。

強力な射撃が必要になる非常時を想定すれば、低圧ラインのみでの運用は命取りとなりかねない。胸元のレギュレータを調整して出力圧力を上昇させるにも時間と手間がかかってしまう。

そのような非常時を想定して設けたのが、この赤字で示した非常用高圧ラインである。

本ラインは高圧タンクに直接接続されているため、一瞬で高圧の圧縮空気をエグゾーストキャノンへ供給することが可能である。使用するためには、まず常用低圧ラインのバルブを締め、赤のCharging Leverを一定時間押し込む…

これはすなわち紛れもなくチャージショットである。

本ウェアラブルエアタンクの開発当時、初のセミオートマチックエグゾーストキャノンであるMk.11は試作段階にあり、最高使用圧力は0.7MPa程度、それ以上の圧力での射撃を行うと、射撃の衝撃に耐えきれずメインピストンが座屈し、再使用には内部ピストン自体の交換修理が必要になってしまう状況であった。

すなわち、この非常用降圧ラインとの接続シーケンスはまさにエグゾーストキャノンの限界を超えたチャージングであり、そこから繰り出される高圧のチャージショットはあらゆる意味でロマンを有した強力な一撃なのである。

接続ユニットをハーネスに取り付けた様子

なお、この接続ユニットを使用しない際は上図のようにハーネスに取り付けたソケットにカプラを接続することで、安定して保持することができる。ソケット内部の穴はネジで塞いであるため、カプラを取り付けても圧縮空気が吹き出すことはない。

Exhaust Cannon Mk.11 ver.6 との接続時

Mk.11との接続時には上図のような状態である。胸元に装備した圧力計がいい感じである。

Make Faireに出展した際にも、ウェアラブルエアタンクの導入によりスムーズな実演を行うことができた。

参考に、実演の様子を以下に示しておく。

という事で理想的なウェアラブルエアタンクシステムが完成した。このシステムの導入により、セミオートマチックのMk.11や、後に完成したフルオートマチックMk.16等の大流量機種のスムーズな運用が可能となった。

将来的にはここに追加で数MPaの圧縮空気ボンベを取り付け、完全スタンドアロンでの行動を可能にしたり、あるいは水タンクを取り付けスプラトゥーン的運用ができるようになれば面白いだろう。