Desktop Micro Vacuum Distillation System

卓上減圧蒸留器

蒸留と本気で向き合う錬金術師のために、減圧蒸留という技術をより手軽に、高精度に、そして美しく。

For the alchemists who are serious about distillation: bringing vacuum distillation to your fingertips with precision and elegance.

■装置概要

巴波重工の卓上減圧蒸留器は、超スモールバッチかつ高品質な蒸留を実現することを目的に設計された、全く新しい蒸留器です。ボイラー内部を減圧することで沸点を下げ、素材への熱ダメージが生じない低温での蒸留/濃縮を可能にします。

超小型設計につきバーやレストランのカウンターでも運用可能。蒸留の様子がライトで美しく照らされる構造は、ゲストに唯一無二の体験をもたらします。

■装置仕様

卓上減圧蒸留装置の構成

■装置構成

装置は卓上減圧蒸留器本体、IHヒータ(別売)、蒸留液回収瓶、真空ポンプから構成され、それぞれは柔軟性のある樹脂製チューブで接続されます。チューブの長さを変えれば各ユニットのレイアウトは自由自在。お店の設計に応じて変更可能です。

蒸留器と回収瓶の専有面積はA4サイズにつき、バーカウンターにも問題なく設置可能。真空ポンプも小型につきカウンター背後に設置すれば隠れてスッキリと収まります。

チューブを接続する継手には国産高品質なワンタッチ継手を採用。着脱は容易で、誰でも確実な気密が得られます。オールガラス製蒸留器のようにな部品着脱時の破損リスクはありません。

以上の特徴により、使用しない際の収納や、ゲストシフト先へ持ち込んでの運転も可能。展開に要する時間は5分ほどで、気楽に減圧蒸留が実現できます。

屋外会場で減圧蒸留器を展開し、ニガヨモギの蒸留水を作る

■装置特徴

■素材への熱ダメージを抑えた低温での蒸留/濃縮操作

沸点と圧力の関係

この蒸留器最大の特徴は「減圧蒸留/濃縮」が可能なことです。この特徴により、40℃以下の低温で蒸留と濃縮が行えるため、熱に弱い原料に加わるダメージを極力抑え、原料そのままの香りや味わいを活かした作品づくりができます。

圧力と液体の沸点には関係性があり、圧力が下がることで沸点は低下していきます。この減圧蒸留器ではボイラー内部の圧力を真空ポンプで7kPa程度まで減圧し、水を夏場の気温と同程度の40℃で沸騰させることができます。

そのため、果物やハーブ、花びらなどの持つみずみずしく繊細な芳香を蒸留したり、エキスを濃縮したりすることができます。

では、実際の使用例を見ていきましょう。

熱ダメージを抑えた芳香蒸留水/ボタニカルスピリッツを作成

任意の素材と水を減圧蒸留器に入れて、香りを濃縮した芳香蒸留水を作れます。

40度という低温で処理できるため、素材の香りを損なわず、常圧蒸留とは比べ物にならない高品質な蒸留ができます。

水蒸留で得られる芳香蒸留水はアルコール、糖分を含まず、加えた対象に純粋に香りだけを添加することができます。ノンアルコール/ローアルコールドリンクや洋菓子、和菓子、あるいは料理など幅広い分野に活用することができます。

また、蒸留器のボイラーは二段構造となっており、上段に素材を載せることでVapor Infusion(または水蒸気蒸留)も可能。素材の持つ芳香を軽やかに抽出可能です。


また、蒸留免許を有する蒸溜所や、自家蒸留が認可されている国の家庭においては、植物とお酒を組み合わせたボタニカルスピリッツを高品質に作ることができます。ボイラーにウォッカとフルーツ、ハーブ、スパイスを入れ、これを蒸留することで素材の香りを抽出した新しいボタニカルスピリッツが完成します。例えばジュニパーベリーを用いればジンが、ニガヨモギとアニスを用いればアブサンが完成。熱を加えない蒸留だからこそ、美しくスムースな風味に仕上がります。蒸溜所での小規模試作はもちろん、バーオリジナルのスピリッツ、ビターズの仕込みにも最適です。


■熱ダメージを抑えた濃縮シロップを作成 

減圧蒸留機に水、フルーツやハーブ、そして砂糖を入れて減圧蒸留をすると、芳香蒸留水が得られると同時に蒸留器内部の素材が煮詰まっていき、最終的にシロップが完成します。

この煮詰めの工程も40℃という低温で行われるため、フレッシュ感が損なわれません。

柑橘、スパイス、水、砂糖を煮詰めればフレッシュなコーラシロップが作れますし、素材を変えればチャイシロップ、トニックシロップも作れます。

例えばシンプルイチゴやスイカなど、果物をブレンダーで潰したものを濃縮すれば、色調鮮やかでフレッシュ感を保ったままシロップ化できます。


面白いのが、必ず同時に芳香蒸留水が得られる点です。例えばコーラシロップを作った際には、同時にコーラの芳香蒸留水が得られます。非常に華やかでな香りが特徴で、シロップで作ったカクテルにアトマイザー等で吹きかければ、非常にフレッシュなアロマを後乗せできます。


また、レストランにて出汁の濃縮にご活用いただいている事例もございます。1番出汁を熱を加えずに濃縮できるため、繊細な風味を損なうことなく味わいを強化できます。 

■熱ダメージを抑えたコンポートを作成 

フルーツを使った濃縮シロップを作る際、フルーツの果肉にシロップが浸透しているのに気づきました。これはまさしく「コンポート」であり、しかも熱が加わらないために鮮やかな色調、みずみずしい芳香、食感がそのまま残った「減圧コンポート」です。

減圧濃縮でフルーツのエキスとシロップが渾然一体となり、減圧から大気圧に戻す際にシロップが果肉の中に一気に浸透します。この減圧→大気開放の力で、非常に素早く調理が完了するもの特徴です。

イチゴの蒸留

アニスの蒸留

ニガヨモギの蒸留

設計思想と特徴

2024年現在、バーやレストランで使用される減圧蒸留器といえばロータリーエバポレータが一般的です。しかしながら、ロータリーエバポレータは化学実験における濃縮を目的とした装置であり、バーやレストランでの仕込みや、蒸溜所での試作に用いた際には様々な不都合が生じます。

一方で、巴波重工の卓上減圧蒸留器は、焼酎やジンの蒸留で用いられる酒造用減圧蒸留器をベースに、バーテンダーの方々の要望を組み合わせて小型化した、設計思想の全く異なる新しい減圧蒸留装置です。

そのため、店舗や蒸溜所での減圧蒸留において様々なメリットがあります。

■減圧蒸留中のテイスティングおよびミドルカットが可能

蒸留の良し悪しを決定づけるのは「カッティング」です。蒸留中に生じる蒸留液のどこからどこまでを製品として採用するのか、その判断が蒸留水、ボタニカルスピリッツの品質を極めて大きく左右します。

例えばイチゴの蒸留では、序盤に強いアロマが出てきて、中盤で強度が急激に下がっていきます。全体を混ぜてしまうと香りが弱く、薄い印象になりますが、強い部分だけをテイスティングに基づいて選別(カット)することで、より品質の高い芳香蒸留水を作れます。 

カッティングのためには、蒸留中に生じる蒸留液の風味を確かめる必要がありますが、ロータリーエバポレータでは蒸留中に液を抜き取って味見をすることは不可能でした。

巴波重工の卓上減圧蒸留装置は減圧蒸留の途中に蒸留液を抜き取って、味や香りの確認をすることができます。これによってテイスティングに基づくミドルカットが可能です。

蒸留液回収瓶のバルブを操作することで、ボイラー内部の減圧沸騰を止めることなく溜まった蒸留液を回収することができます。

この特徴により、蒸留水およびボタニカルスピリッツの品質をどこまでも追い求めることが可能です。蒸溜所でのジンやアブサンの試験蒸留にも問題なくご使用いただけます。

■高い洗浄性

使用後、ボイラーの構成部品はすべてスポンジと洗剤で丸洗い可能です。食洗機も使用可能です。ガラスボイラーは厚み5mmの堅牢設計につき、割れにくい設計となっており、フラスコと異なり内部まで手を入れてしっかり洗浄ができます。

蒸気が通るコンデンサーは、ビールサーバーと同じ要領で水通し洗浄と薬液洗浄が簡単に行えます。匂いの強い素材を蒸留したあとは、クエン酸水や漂白剤をコンデンサー内部に貯めて漬け置きすることで脱臭が可能です。

バーカウンターに設置可能な設計

蒸留器本体と蒸留液回収瓶の専有面積はA4サイズにつき、バーカウンターに設置して蒸留が可能です。電動真空ポンプの動作音は小さく、BGMの流れる店内であれば知覚できないレベルに抑えられています。

また、減圧蒸留のため装置は高温にならず、万が一直接手で触れた際にも安全です。ボイラーには厚さ4mmのアクリル製安全カバーを設けており、万が一減圧によりガラスが破損した場合でも飛散は防止され安全です。

内部の蒸留が真横から見え、ボイラー内部が照明でライトアップされる構造となっています。この構造により、お客様に減圧蒸留の過程を楽しんでいただくことができます。

日本バー文化における美しさの一つは、ドリンクを眼前でオーダーメイドにて作り上げる点にあると考えています。ならば、バーにおける蒸留もその過程の一つとしてゲストに楽しんでもらえるべきであるというのが設計の背景にあります。バーカウンターの減圧蒸留器がきっかけになり、お酒とそれを生み出す技術について新たなコミュニケーションが生じていくのも面白いのではないかと。

■簡単な操作

加熱はIHヒーターで行い、減圧は小型の真空ポンプ、冷却は水道水(場合によっては氷水)で行います。設定が必要なのはIHヒーターのパワーのみで非常にシンプルです。

ロータリーエバポレータのように、非常に多くのパラメータをコントロールする必要はなく、大型の冷却水循環装置や真空ポンプも不要です。

ボイラー内部のパンチングメタルは突沸を抑制します。

銅素材の採用による硫黄化合物の除去

ボイラーの蓋およびコンデンサーの冷却コイルにはアランビック蒸留器で伝統的に用いられる銅を採用しています。銅と蒸気が接触することで、硫黄化合物由来のオフフレーバが吸着され、クリーンなアロマとなることが期待できます。また、銅は極めて高い熱伝導率を有し、コンデンサーの冷却効率の向上にも一役買っています。

簡単な分解組み立て

各ユニットの接続には高品質なワンタッチ継手を使用しています。つけ外しは非常に簡単で、空気の漏れも起こりません。そのため、使用しないときはチューブを外して収納したり、ゲストシフトのために持ち出すことも非常に容易です。旅行用のスーツケースにIHや真空ポンプ含めすべてが収まるサイズです。

■発注について

直接メッセージにてご発注頂く形を取っております。納期としては小規模生産につき最長で4ヶ月程度頂戴しております。製作費につきましてはロータリーエバポレータ一式の約1/4以下となっておりますが、詳細はメッセージにてお問い合わせください。

2024.10 巴波重工代表 安永