二重筒式

二重筒式はエグゾーストキャノンの機構の中で最初に考案された機構です。上図にその構造を示します。

このように同軸上に外シリンダー、内シリンダーが配置されていることからこの名称がついています。中央右のシリンダーにはピストンユニットが収められており、右側のピストンを便宜上メインピストンと呼んでいます。そのメインピストンの左側は内シリンダーとなっています。図に黒で示されている部分はゴム板であり、空気を漏れないようにする(シールする)部分です。また点線部分で示されたシリンダーは左図のように、窓のような形状になっており、流体の行き来ができます。

では発射メカニズムについて見ていきます。

1.圧縮空気の導入

ここでは青色を大気圧状態の空気、オレンジ色を圧縮空気とし、黄色の矢印を圧縮空気の流れ、赤色の矢印を圧力とします。右端の空気導入部分から圧縮空気を導入すると、上図のようにピストンユニットに左向きの圧力がかかり、左向きの駆動力が発生します。

2.ピストンが内シリンダーをシール

圧縮空気によって左側へ駆動されたピストンユニットは内シリンダーに接触し停止、内シリンダーをシールします。

3.圧縮空気の充填

上図のようにピストンユニットは内シリンダーの入り口をシールした状態で停止しています。

ここで更に圧縮空気を送り込むと、シリンダーとメインピストンの隙間から圧縮空気が黄色矢印に示すように外シリンダーと内シリンダーの間の空間に充填されていきます。冒頭でゴム板部分は圧縮空気をシールすると記載しましたが、わずかに空気が通れる程度の密着にしておくのがポイントです。

またピストンユニットの左端部分では、圧力差により左向きの荷重がかかり、ピストンユニット左端は内シリンダーにより強力に押さえつけられ、この部分は高圧になればなるほど、そのシール性は高まります。

4.発射トリガ

エグゾーストキャノンを発射するということは、内部のピストンユニットを高速で後退させることで実現します。上図のようにピストンユニット後部の領域の圧縮空気を高速で抜き去ると、メインピストンに右向きの圧力が発生します。

ピストンユニットには左右それぞれに大気圧と圧縮空気との差圧がかかっていますが、右端のメインピストンの面積が左端のそれよりも大きいため、全体では右側に駆動力が発生します。この駆動力を受けてピストンユニットが右側に移動し始めます。

5.ピストンユニット後退

上図はピストンユニットが右側へやや後退した時の状態です。この時ピストンユニット左端部と内シリンダーのシールは解除されるため、左向きの圧力もなくなり、右向きの圧力のみとなります。この圧力によって発生する駆動力は大変大きく、ピストンユニットは高速で右側へ後退します。(シリンダー直径Φ40mm、圧縮空気の圧力をゲージ圧で0.8MPaとした時、ピストンユニットにかかる右向きの荷重は約100kgにもなります)

このようにピストンユニットが後退することで内シリンダーが開放され、そこから圧縮空気が排気され始めます。

6.排気(発射)

強力な駆動力を受けて右端へ高速でピストンユニットが後退することにより、内シリンダーはすさまじい速度で開放されます。こうして形成された流路を通って、圧縮空気もすさまじい速度で排気されます。これがエグゾーストキャノンにおける発射ということになります。この発射シーケンスをイラストで順に説明しましたが、実際にはこれらは一瞬(数ms)の内に完了するため、圧縮空気はほぼ塊として、ズバンと打ち出されるのです。

二重筒式のメリット

二重筒式には復数の大きなメリットが有ります。

1.ピストンユニットが小型軽量

エグゾーストキャノンの弁であるピストンユニットは軽ければ軽いほど、得る速度は大きくなります。すなわちより高速な排気が可能になります。二重筒式では後に解説する単管式や容量可変式と比較し、最もピストンユニットを小型にすることができ、結果としてより高速な排気が可能となります。

2.内シリンダーの存在

二重筒式では、キャノンの中心に内シリンダーが配置されています。この内シリンダーが銃口部分から排気される圧縮空気の圧力波形をより理想的なものとします。詳しくは衝撃波管の項を参照してください(未執筆)

また内部に内シリンダーがあることで、この部分に液体を充填することができます。圧縮空気を充填し、内シリンダーがピストンユニットによって閉じられた後に液体を注ぎ入れます。

この状態でエグゾーストキャノンを発射すると、超強力水鉄砲となります。水鉄砲と行っても液体の塊が発射されるのではなく、微細なミスト状になった液体が高速で噴射されます。これはまさしく消防用のインパルス消火システム(IFEX)のそれと同様のシステムです。

そして当然、水の代わりに可燃性の液体を込めて発射することもできます。ここで発射と同時に液体がミスト状になる特性を利用します。発射した瞬間、燃料はミスト状になり空気中に拡散するため、そこに引火させると凄まじい勢いで燃焼し、銃口から巨大な火の玉を発生させることができるのです。(リンク先は荻野剛氏による実験の模様です。)

二重筒式のデメリット

1.製作難易度が非常に高い

特殊な構造のため、水道管の様な規格品で作ることができず、すべて自分で部品を作る必要があります。実際には外筒に消火器などを用いることになりますが、大径のシリンダーで圧力容器を製作するのは、個人では極めて難易度、そして危険性の高い工作になります。実際に製作するにあたっては、TIG溶接の様な高性能な溶接方法を用いてフランジとシリンダーを溶接したりなど、とてもハードルが高くなってしまいます。

2.充填容量が稼げない

構造上、内部に内シリンダーを通す必要が有るため、この分当然充填容量が減少します。充填容量を稼ぐには内シリンダーより更に大径の外シリンダーを用いる必要が有り、結果として装置の大型化、そして1で述べた製作難易度上昇につながってしまいます。

まとめ

以上のように最高の性能と製作難易度を併せ持つ二重筒式は、エグゾーストキャノンの頂点に立つ構造と言えます。キャノン製作に足を踏み入れた人々は最終的にこの形式に行き着くのです。二重筒式を用いて作られた大型キャノンの排気は他のどのキャノンとも異なり、ズバンと深く、極めて余裕のある心地よい爆音です。これをもう一度味わいたくて、筆者は再びの二重筒式キャノンの製作を画策しているところです。

二重筒式を動作メカニズムとする機体

Mk.1

Mar. 2008

自分が初めて製作したエグゾーストキャノン。「アリエナイ理科ノ工作」に最初に出てくるプロトタイプ機の完全なレプリカである。

Mk.2

Jan. - Feb. 2009

Mk.1をベースにフランジを内部に収め、よりコンパクトにまとめようとして製作した。

Mk.3

Jul. - Sep. 2009

「アリエナイ理科ノ工作」にて登場する消火器キャノンのレプリカ。極めて完成された構造であり、充填容量も最大、現時点で最高の威力を有する。とても深みのある低音を伴い、余裕を感じさせる最高の排気音。

Mk.9

Nov. - Dec. 2011

過去最高威力を有する大型キャノンを目指して製作。とにかく大きく重きい。設計が適当だったため、Mk.3を超えることはできなかった。


Mk.16

Dec. 2014

超高速充填、超高速排気、そして超高速フルオートマチック連射をコンセプトとしたフラグシップ機。エグゾーストキャノンとして初の二段式排気機構を実装し、1段目にREVを改良したARREV(Automatic-Recovery REV)を、二段目のメインピストンとしてSleeve Valveを新たに開発実装することで、秒間16発という凄まじいサイクルでの強烈な衝撃波生成に成功した。チャンバー容量はわずか180ml程度であるにもかかわらず、他を圧倒する急峻な爆音を響かせる。

Mk.18

Nov. 2014

史上最速のノズル開放速度を目指し、REVの試作機として製作したMk.14を1段目として流用した大型二段式エグゾーストキャノン。REVと2段目メインピストンの前段加速の組み合わせで、メインピストンの獲得速度は最高40 m/sに達し、ノズルから出力される衝撃波のキレも過去最強を実現することができた。しかしそのメインピストンの運動エネルギを制御下に置くことができず、自壊。現在改修中。