究極の缶ビールサービング

The Ultimate Beer Can Serving Method

理論値でサーブする缶ビールは店舗のクオリティを凌駕する

2023年、世界は未曾有の酷暑に包まれた。

こうなったら我々を救ってくれるのはもうアレしかない。そう、アレ。

最高にうまいビールである。

そのビールは、缶そのままよりもやっぱりグラス。グラスには艶めかしく結露が広がり、そしてビールは限界まで冷えていることが必須条件だ。

そんな理論値のグラスビールを手に入れるためには、必ずしも飲食店に行く必要はない。そこで今回は、家庭で缶ビールを理論値でサーブし、この地獄のような暑さを最高に旨いビールで打破する方法を記していきたい。

最高にうまいグラスビールについて

具体的な技法の前に、うまいグラスビールについて考えよう。

撮影場所:幾星 京都蒸溜室

お酒にこだわりのあるお店で飲むビールはうまい。グラスの内面琥珀色の液体で均一に美しく満ち満ちており、その表面にはきめ細やかで濃密な泡が乗っている。そして例えばそれが日本の誇るピルスナースタイルであった場合にはグラスもビールもしっかり冷えている。想像しただけで気分が高まる。

飲食店のビールと家庭のビールで最もわかりやすい違いはビールサーバーの存在である。しかし、ビールサーバーの有無は得られるグラスビールの優劣を決定づけるものではまったくない。

個人的見解として、うまいグラスビールを構成する要素は次の3つである。

この3つがパーフェクトであってはじめて、最高にうまいグラスビールと言うことができるだろう。

1.ビールの品質

ビールの品質グラスに注がれるビールそのものの品質である。

「ビールに旅をさせるな」という言葉がある。ビールは醸造所で飲む新鮮なビールが最高であるということだ。もちろん長期熟成系のどっしりとしたスタイルなどはその限りではないが、逆に黒ラベルやスーパードライなど、軽やかな風味が特徴のジャパニーズピルスナーの場合、鮮度は特に重視しなければならない。

ではビール工場に行かずして可能な限り鮮度の良いビールを手に入れるためにはどうすればよいのだろうか。そのためにはビールの「製造日からの日数」と「店舗での保管温度」に着目する必要がある。製造日からの日数は短ければ短いほど、保管温度は低温であればあるほど鮮度の観点で望ましい。

この2つの条件を満たしたビールを手に入れられる場所がどこかというと、実は「コンビニ」である。これは、コンビニが小規模ゆえ仕入れから販売までのサイクルが短く、しかもすべてが冷蔵庫内に陳列されているためだ。逆に酒屋では大量に仕入れられたものが店内で長期間、常温(最悪の場合屋外の倉庫)で保管されているケースが多く、コンビニと比較して価格はたしかに安価だが鮮度では大きく劣る可能性が高い。

ちなみに、缶ビールの裏面には製造工場を示す記号と製造日が記載されている。写真は最近コンビニで買ったビールの写真だが、これは2023年7月に製造されたビールということになる。この記事を書いているのが2023年8月なので、これはかなりいい鮮度である!たまに同月製造のものに出会えたときはややテンションが上がる。


また、仮に鮮度のいいビールを手に入れられても、それがグラスに注がれる過程で大きく劣化する場面もある。それは生ビールをビアサーバーで注ぐタイミングだ。ビアサーバーで注いだビールはなんとなく美味しそうなイメージがあるが、ビアサーバは基本的には「ビールを冷やし」、「必要量を注ぐ」機能しか持っておらず、ビールを美味しくする機能を持っているわけではない。逆に、このビールサーバー内の洗浄が不十分であると、注がれるビールの風味は絶望的なまでに劣化し、ひどい場合は腐卵臭を放つビールになってしまう(ショッピングモールの定食屋で生ビールを頼むと高頻度でこれに遭遇する。)つまりビアサーバーは飲食店での利便性を得るための諸刃の剣といえよう。

一方、世の中には生ビールが美味しくて有名な店というのがたくさんある。彼らはビールを美味しくするための特別なテクニックを持っているわけではなく、あくまで基本に忠実に、ビアサーバの洗浄徹底的に行い、樽の中のビールが持つ本来の美味しさを如何に劣化させずに提供するかに命をかけているのだ。実際、ビールが本当に美味しいお店では、毎日の水洗浄は当たり前として薬剤を用いた洗浄、タップをバラし漬け置き洗浄するなど、営業終了後に並々ならぬ努力がなされている。

ここで話を家庭に戻すと、缶・瓶ビールではビールサーバーを介さず直接グラスに注げるわけで、サーバーで問題となる洗浄不足による品質劣化はまったく起こり得ない!つまり、ビアサーバーを超える提供品質がだれでも一発で出せるわけである。

(逆に言えば、家庭で美味しいビールを飲むためにわざわざビアサーバを導入するメリットはあんまりない…)

以上を総括して、「コンビニで缶ビールを買う」ことこそ、家庭で最高のグラスビールを味わうに当たりベストなアプローチといえよう。

2.グラスの洗浄度

ベストなビールを手に入れたところで、それを注ぐグラスにも着目していこう。


■必要なもの

必要なものは以上の5セットである。

上記写真からお察しの通り、「理論値のグラスビール」を手に入れるためにはグラスから準備をする必要がある。手間がかかるのは事実であるが、その価値はある。なによりビールそのものがスペシャルな嗜好品なのだ。それぐらいの手間を惜しんではならない。

■グラスの洗浄

撮影場所:幾星 京都蒸溜室

飲み物が主役であるバーなどにおいて、極めて重要なのがグラスの洗浄である。

お酒にこだわりのあるお店で飲むビールは、グラスの内面に一切の泡が付着せず、琥珀色の液体で美しく満たされ、その表面にはきめ細やかな泡が乗っている。ビールの注ぎ方として「3度注ぎ」は有名である。ビールを3回に分けてグラスに注ぐことでお店のようにきれいな泡の乗ったビールを注ごうといった文脈で宣伝される技法だが、注ぐ回数は本質ではない。本質とはグラスの洗浄度合いである。