酒鍋

古来より、人類は燃え盛る炎を囲み、酒を飲み、そして飯を食べてきた。酒で曖昧になった脳内に揺らめく炎のイメイジが溶け込み、そこに飯の旨さがくる。人間は本能的にこのような状況を幸福と認知するよう進化してきたと思う。そんな有史以来より人間の遺伝子に刻まれた本能に訴えかける儀式がある。

それが「酒鍋」である。

今回はそんな酒鍋の儀式を皆様へ伝導したい。

基本材料はこの2つ。にんにくと純米酒。酒は米の旨味が濃縮されてそうな銘柄を選ぶと良さそうである。にんにくは4合にたいして一房すべて入れるぐらいの勢いで良い。にんにくは皮を剥いておく。

贅沢に日本酒を鍋にそそぐ。3~4人前で4合全て使うぐらいの勢いでいい。1瓶1000円ぐらいはするものだが、後に発現する肉の旨味ブーストを考えると価格以上の価値があるのは間違いない。騙されたと思って入れてほしい。

にんにくを入れて加熱開始。全体が激しく沸騰し始めたら儀式の準備は完了である。

ここで取り出したるはガスバーナー(チャッカマンでもいい)。あとはもうお分かりだろう…

液面に火を放ち、燃やすったら燃やす!!

とにかく燃やせ!!!!炎色反応がきれいだな!!!!!(塩分を入れると黄色い炎が上がる)

完全にアルコールを飛ばしたら、飾り人参でも入れておきましょう。アルコールが残っていると違和感がすごいので、火が消えた後も数分間沸騰させ続けることをおすすめする。

あとは豚肉なり牛肉をしゃぶしゃぶしてポン酢で頂く。ゆずぽんでももちろん良い。

そしてそこに合わせるのは決して高級肉である必要はない。そう、日本酒の旨味パワーでどんな安肉も超高級旨味マシマシ肉にブーストされるのである。

熟成肉がうまいのはカビ等の微生物の力でタンパク質が分解されアミノ酸に変化するためだが、日本酒も同じく米由来の旨味成分がドンと載っている。しかもそれはうま味調味料とは一線を画す複雑に調和の取れた旨味だ。

画して日本酒鍋では激安肉が超高級肉に変貌を遂げるのである。

しゃぶしゃぶを楽しんだら、後は寄せ酒鍋を作ろう。肉の旨味も溶け出して、完全になったリキッドに野菜をどんどん入れる。ここで水を入れて酒成分を薄める必要はない。野菜から出る水分だけで十分だからだ。

しばらく蓋をして寄せ酒鍋が完成。これがうまい。本当にうまい。延々にうまい。騙されたと思って作ってくれ…

締めにお米と卵を入れて雑炊でも作ればもう筆舌に尽くしがたい…

優勝。はい優勝。日本酒と肉と野菜の旨味が渾然一体となった””神””雑炊の完成だ。

記事は以上である。あまりの美味しさに写真を限界サイズまで大きくしてしまった。筆者によって酒鍋を布教された友人はその後の一ヶ月間に5回も酒鍋の儀を取り計らうほど、その魅力に取り憑かれていた。それぐらい美味しいので皆さんぜひお試しあれ。