AEV : Augmented Exhaust Valve

前項ではエグゾーストキャノンのトリガー手法として、エアダスター、エアカプラ、バランスバルブを取り上げ、それぞれのメリット・デメリットを紹介しました。中でも排気速度はノズルからの圧縮空気の立ち上がりを左右する重要な要素であり、装置のスケールが大きくなるに従いその重要度は増してきます。一方で、以上のようなトリガーバルブの高速大容量化には頭打ちがあります。

そこで、トリガーバルブの高速大容量化とは異なる排気速度向上のアプローチとして日本のCoiler555氏によって提案されたのが、

AEV : Augmented Exhaust Valve

のシステムです。

Augmented Exhaust Valveとは日本語に訳せば「拡張型排気弁」となり、従来のようにトリガーバルブの大容量化に頼らずエグゾーストキャノンの排気速度を大幅に向上させるバルブシステムを意図しています。

AEVのシステムを上図に示します。上図の通り、メインピストンの尾栓側に新たなピストンが追加された形となっており、これを便宜上AEVピストンと呼称します。またノズルシールピストンにOリングを用いているのも重要な特徴です。それでは以下に動作シーケンスを解説していきます。

1. 初期状態

青色が大気、オレンジ色が圧縮空気とします。ここで便宜上、ノズルシールピストンとメインピストン間の空間をメインチャンバー、メインピストン背後の領域をバックチャンバーと定義します。圧縮空気はインテークバルブから導入されます。インテークバルブが閉まっていれば圧縮空気のキャノンへの流入はありません。

2. 圧縮空気導入

インテークバルブを開いて圧縮空気を導入します。バックチャンバーは圧縮空気で満たされ、メインピストンとAEVピストンにはそれぞれ左向きの力、右向きの力が作用します。この時、メインピストンの面積のほうが大きいため、ピストンユニット全体には左向きの力が作用しますが、ノズル部でピストンユニットはノズルに接触しているため、動くことはありません。

3. 圧縮空気充填

さらに圧縮空気を導入してくことで、圧縮空気はメインピストンとシリンダーの隙間を介してチャンバー全域に行き渡ります。この状態でノズルシールピストンとAEVピストンに力が生じますが、ここでもノズルシールピストンの面積が大きく、ピストンユニット全体には左向きの力が作用し、ピストンユニットは動きません。圧縮空気の充填完了後にインテークバルブを閉めれば発射待機状態となります。

4. トリガーバルブ開放

トリガーバルブを開放することで発射シーケンスがスタートします。トリガーバルブから流出する圧縮空気流量は小さいですが、バックチャンバーの圧力が僅かに低下することでメインピストンの左右で圧力差が生じ、ピストンユニット全体は右へ駆動力を受けることになります。この駆動力によってピストンは右へ移動を開始します。

5. バックチャンバー開放

ある程度までメインピストンが右へ移動すると今度はバックチャンバーをシールしていたAEVピストンが開放されます。これによりバックチャンバーの圧縮空気は瞬間的に大気開放され、メインピストンに作用する駆動力は瞬間的に増大、結果通常のトリガーバルブを使用した場合とは比較にならない猛烈な右向きの加速度がピストンユニット全体に生じます。

6. ノズル開放

猛烈な加速度を受けたピストンユニットは高速で右方向へ加速し、ノズルは極めて高速に開放されます。これによって非常に立ち上がりの鋭い圧縮空気がノズルから発射されます。

AEVシステムの長所

■高速なバックチャンバー排気

AEVシステム最大の特徴はなんといってもバックチャンバーの排気速度にあります。AEVピストンの開放によって形成される排気ポートの断面積は従来のエアダスターやエアカプラ等は圧倒的に大きく、瞬間的にバックチャンバーの排気を完了することができます。これによってメインピストンの駆動速度を大幅に高速化し、キレのある排気が実現できるというわけです。Exhaust Cannon Mk.13ではこのAEVシステムの活用に主眼をおいた機体であり、AEVピストンの面積は通常のエアカプラの断面積の約10倍程度を誇ります。

■バックチャンバー排気とトリガー排気の分離

AEVのもう一つのメリットはバックチャンバー排気とトリガー排気の役割をそれぞれ異なるバルブに分担させたことにあります。従来のEキャノンはトリガーに用いるバルブがバックチャンバー排気の役割を担っていたため、ピストンユニットの高速駆動のためには高速大容量のバルブを選定しなければなりませんでした。一方でAEVのシステムではバックチャンバー圧を僅かに下げるだけでAEVピストンが開放され、瞬時にバックチャンバーが大気圧になります。そのため、発射のトリガーに小容量のバルブを用いてもメインピストンを高速駆動できます。

その最たる例がこのAEVを採用したExhaust Cannon Mk.17です。この機体ではトリガーバルブになんと加工した米式バルブを用いています。通常このサイズのEキャノンのトリガーに米式バルブのような極小流量のバルブを採用したら、ピストンユニットはほとんど加速されないでしょう。しかしAEVピストンがあることで僅かなバックチャンバーの減圧をトリガーとしてピストンユニットは強力にドライブされ、キレのある排気が実現できるというわけです。

また同じくAEVを採用したExhaust Cannon Mk.13ではバックチャンバーにチューブを接続し、その先に取り付けたエアダスターの引き金を引くことでキャノンを遠隔発射できます。どれだけチューブが長く圧損が大きかろうと、ピストンユニットの動作自体には影響がないからです。

AEVシステムの短所

■ピストンユニットの重量増加

AEVピストンとシャフトがメインピストンに追加される形となるため、ピストンユニットの重量増加による加速度低下を考慮する必要があります。単純な運動方程式より重量は加速度に1乗で、獲得速度に1/2乗で影響します。例えば単管式を採用したキャノンでは元々ピストンユニットの全長が長く、AEVの追設による全体重量増加への寄与は小さいですが、二重筒式のような小型軽量のピストンユニットにAEVを適用すると、かえって逆効果になることがあります。そのためピストンユニットの設計に応じて採用の可否を検討するのが良いでしょう。


余談:スイッチング素子としてのエグゾーストキャノン

電気と圧縮性流体にはアナロジー(相似則)があり、電流 [A]は流量 [kg/s]、電圧 [V]は圧力 [Pa]にそれぞれ対応しています。例えばオリフィスは抵抗、ダイオードは逆止弁、空気タンクはコンデンサ、バルブはスイッチないし可変抵抗、インダクタはやや分かりづらいですが空気タービン(回り始めの負荷は大きいが、回転数が上がれば負荷が低下する)に相当します

ここでエグゾーストキャノンを電気回路における回路素子に当てはめれば、超高速大容量のスイッチング素子に相当すると言えるでしょう。トリガーバルブを用いてバックチャンバー内の圧縮空気を排気し、メインチャンバー内の大容量の圧縮空気を高速スイッチングするわけです。トリガーバルブの排気流量にピストンユニットの獲得速度は比例するため、通常のエグゾーストキャノンは電流制御のトランジスタと言えます。

一方でAEVのシステムではトリガーバルブの排気流量はピストンユニットの獲得速度と無関係です。バックチャンバー圧を僅かに下げるだけでAEVピストンが開放され、瞬時にバックチャンバーが大気圧になります。そのため、AEVを搭載したエグゾーストキャノンは電圧制御のスイッチング素子、すなわちFETに相当すると言えるでしょう。この特性のため、トリガーバルブに採用できるバルブの種類が増え、操作に柔軟性があると言えます。

■AEVを採用したエグゾーストキャノン

Mk.11

Feb. 2012 - Dec. 2013

現時点で自分の製作したエグゾーストキャノンシリーズにおける最高性能機。セミオートマチックエグゾーストキャノン。ピストンユニットの駆動速度を大きく向上させるAEVを実装したため、初めて座屈問題が生じた。

第5回目の改修にてこの座屈問題を解消する機構が確立した。

Mk.13

Jan. 2014

二年間で5回の改修の後完成したMk.11の設計を一から見直し、流路の最適化や、ゆとりのある部品配置、製作製の向上等を目的とし、また高い拡張性を有する実験機として製作した。

単管式の集大成。

Mk.17 / 単管式

Jul. 2014

エグゾーストキャノンMk.7 Type MをベースにAEV(Augmented Exhaust Valve)を実装し、排気の高速化とシンプルな発射体系を目指し製作した。

外部に露出した米式バルブの排気ピンが発射トリガーであり、これを押すだけでAEVがドライブされる。結果としてピストン重量の増大による瞬発力低下が大きく効き、当初狙ったほどの性能は得られなかった。