Mk.4

現在エグゾーストキャノンの機構の主流と成っている「単管式」その機構の完成に至る前段階の実証機として初めて製作したのがこのMk.4です。

過去のMk.1,2,3との決定機な違いとしては、このMk.4から新たに旋盤を導入できたため、溶接やハンダ付け等を用いること無く、Oリングを用いた機械的シーリングが可能になり、装置の安全性やメンテナンス性が大幅に向上したということです。(過去の装置については今考えると圧力容器としてとんでもない設計がふんだんに含まれており、到底その製作を人に薦められるものではありませんでしたが、Mk.4からはしっかりとした設計手順を踏めば安全に扱うことができます。)

現在の主流を作ったエグゾーストキャノンとしてなかなかに思い入れの深い機体です。

以下製作記です。

2010.3 プロローグ

東京の「3331アーツ千代田」というアートスペースのオープニングイベントにて、「エクストリームDIY」というイベントが開催され、それを見に行って来ました。

イベントの概要としては上記のリンク先の通りですが、実のところは「ア理科執筆陣による個展」です。

会場にはPOKA氏の代表作であるテスラコイル(左がPOKA氏製作、右がHiroshi氏製作)や、

アリエナイ理科ノ工作に掲載されていた高圧反応容器等が展示されていました。

そんな中、自分が個人的に最も気になったのがこの、

「ハイパワーキャノン」です。要するにPOKA氏によるエグゾーストキャノンの最新作です。

観たところ「アリエナイ理科ノ工作」掲載時のキャノンとは外見が異なり、非常にシンプルな構造です。会場に居たPOKA氏に聞いてみたところ、足場単管の内部に二重筒式の構造が収められているとのことでした。

ここで自分が疑問に思ったのはそのシール機構です。

当時の自分は圧縮空気のシール機構はネジ止め、ゴムパッキン、そしてハンダ付けろう付け溶接しか知らなかったため、このキャノンがどのようにして内部のエアーをシールしているか想像できませんでした。その後POKA氏に質問したところ、旋盤を用いて両端の円形部品に溝を掘り、「Oリング」によるシールを行っているということでした。(Oリングを用いたシーリングについてはSealingで詳しく紹介しています。)

最初はOリングの封止原理自体もあまり理解できていませんでしたが、とりあえず作ってみようということで、この「ハイパワーキャノン」の洗練されたルックスを有するマシンを作ることを決意しました。

2010.5 設計

その後なんと、POKA氏に余っている旋盤を頂ける事になりました。

来ました。(ア理工の最後の方のページに載っているアレです。本当にPOKA氏には感謝してもしきれません)

制作環境が整った所で、キャノン本体の構造を考えていきます。

当時の設計メモです。

当時のブログ記事によると、

”今回は今までのキャノンにあった内筒がありません、それによって充填容量の増大、また内筒の大口径化による充填容量の減少を考える必要がなく、射出口の大型が可能になります。また、内筒の溶接の作業の必要がないため、外筒の長さを増やせば容易に、いくらでも容量をふやせるはずです。ちなみに今回はシールをすべてOリングで行うのではんだづけの必要がありません。”

とあります。

Mk.4は現在エグゾーストキャノンの主流機構となっている「単管式」の前身となる機構となっています。二重筒式にあったピストンを収めるシリンダーはそのままに、内シリンダーのみを排し、その代わりにピストンユニットを延長したという構造です。両端部分についてはパイプ内部にOリングをはめたノズル、尾栓を挿入しシーリング、それをM8ボルトを用いて固定するという手法です。これはPOKA氏製作「ハイパワーキャノン」と同様の手法です。

ちなみに今の単管式の構造を考えれば、ピストンを収める11/4のニップル製シリンダーは必要ありません。ただし使用予定のパイプの内面には大きな溶接の継ぎ目が有り、そのままではシリンダーとして使えないために内部にもう一本パイプを配置しシリンダーとしたのだと思います。

2010.5 材料購入

材料を買い集めてきました。

キャノン両端の尾栓とノズルの素材である、φ60×50mmのA2017丸棒です。(2個で3200円でした) 購入には業界では最も有名であろう「とくきん」さんを利用しました。(棒状の素材のことを「丸棒」と呼称するという事実を知るまでは、入手方法が見つからず苦労しました。一度名前を知ってしまえばこちらの物です)

ジョイフル本田で見つけたφ60鋼管です。2mで900円でした。厚みもあり信頼できます。但し内面の溶接継目がひどく、シリンダーとして使うには一工夫必要です。

ピストンユニットを収めるシリンダーとして用いるニップル類です。確かこれらもホームセンターで購入した記憶があります。

ピストンユニットを構成する全ネジです。

今回のシーリングの要となるOリングです。トイレ用とありますが誤差の範囲です。(当時はMonotaROの存在を知らず、ホームセンターでOリングといえば水回り用しか存在しなかったということです)

材料が揃った所で実際に加工を進めていきます。

2010.6 製作

1.外シリンダー

まずは外シリンダーとなる鋼管から加工していきます。

高校の物理室に持ち込んだ高速切断機で切断したパイプですが、内面には上図の様な溶接の継ぎ目が存在し、このままではOリングを用いたシーリングができません。

これについてはヤスリを用いて気合で削るしかありません。

半月ヤスリの円弧状の面を使ってひたすら削っていきます。

この加工については他に良い方法を今でも思案したりはするのですが、結果としてヤスリ最強説に終着します。

加工が終了し、上図のように継ぎ目が大方消えました。

この程度まで削れればOリングが使えます。

Oリングを取り付けた丸棒を固定するための穴を放射状に開けていきます。ポンチ打ち用の目安としてマーキングをしておきます。

穴をポンチを打った個所にドリルで開け、タップで雌ねじを切ります。(いま見てみると鋼管にタップ立てをするのは当然推奨できる方法ではありません)

但しこの時物理部は学校では色々とやらかしてしまったために、物理室から一ヶ月の追放処分。加えて工作機械類の設置も不可となってしまい、当時あったボール盤すらない状況。仕方なく穴あけはすべてハンドドリルで気合で行いました。

意外と何とかなるものです。

加工を経て上記のように6つの放射状の雌ねじを形成することが出来ました。

この加工を反対側にも施し外シリンダーは完成です。

2.ノズル及び尾栓

ここでようやく旋盤の登場です。A2017丸棒をどんどん加工していきます。

エアー供給ポートを作るべく、まずはドリルで穴を貫通させ、

(この時点で何故か端面だしをしていないのは置いておき、)

頑張って1/4の管用タップを立てます。このタップ立ては一般的なM4やM6程度のタップたてとは比べ物にならないほどのトルクを必要とし、それなりの大きさの万力と強度のあるタップハンドル、そしてパワーが無いと行うことは不可能です。

両側にタップたてが終了したので部品を組み付けてみました。自分の行った加工で規格品を取り付けられるようになるというのはちょっとした感動ポイントです。

ノズルにについては、ドリルで開けた穴を中ぐりバイトで拡張します。

Oリング用の溝(右側)とボルト固定用の溝(左側)を突切りバイトで掘ります。卓上旋盤はパワーがなく、加工中旋盤が止まりに止まるのでなかなかストレスの貯まる工程です。


加工が完了した丸棒です。端面出しと面取りが施されています。素人加工でもやはり旋盤で加工した部品はカッコいいですね。

(今見ると本当にひどい切削面やバリだなと思いますが…)


試しに鋼管に組み付けてみたところです。なかなかよい感じです。(キャップボルトの長さが明らかにおかしいのは、明らかに長すぎるキャップボルトを間違えて買ってしまったからです)

また鋼管の端面とノズル部分の隙間にOリングを入れてあります。この隙間は無くても良いのですが、実際の工作精度ではここを完全に一致させるのは難しくどうしても僅かな隙間ができてしまうと考え、ならばと思いそこにOリングを入れてあります。アルミと鋼管のシルバーに対してOリングの黒が良いアクセントに成っています。尾栓部分についても鋼管にしっかり嵌ることが確認できたので、ノズルと尾栓についてはこれにて完成です。

3.ピストンユニット

最後にキャノンの動作の肝となるピストンユニットです。

この当時はキャノンのピストンといえばまな板が主流だったので、例に漏れず素材はまな板です。適当なサイズに切り出し、穴あけ→M8タップ立てを経て、上図のようにボルトに締結します。これをシリンダーに収まるように円形に加工していきます。


以前はここはボール盤+ヤスリでしたが、今は旋盤という圧倒的ツールがあるので一瞬です。やはり旋盤は素晴らしい…一家に一台です。


これはピストンユニットを外シリンダー中央に保持するホルダーです。中央部分は見ての通り高ナット、そして放射状に伸びるパーツは釘から出来ており、それぞれにタップ、ダイス加工を施し締結しました。


ノズルをシールするゴム板を支える部品もまな板で作ります。先ほどのホルダーと合わせると上図のようになります。


ということでようやくピストンユニットが完成し、すべての構成要素が完成しました。

2010.6.13 完成 実射実験

ということで完成です。発案から半月ほどで完成しました。構造がシンプル且つ旋盤という新たな戦力のお陰です。


尾栓の方は上図のようになっています。

後端に取り付けられたエアカプラのプラグより圧縮空気を導入、発射時はカプラのソケットをリリースすることで内部のピストンユニットがドライブされ、ノズルから圧縮空気が排気されます。

(詳しい動作原理は単管式を参照)

なかなかいいかんじです。

次は小さなものに対して打ってみます。

Mk.3の時と同様に、B5のノートに対して射撃してみます。

対象とノズルは距離がやや離れていながらも、勢い良くノートを吹き飛ばすことに成功しています。

木の板を固定して打ち込んでみます。見事、圧縮空気の力で板を叩き割ることに成功しました。

2010.7.7,8 筑波Prosume 2010

エグゾーストキャノンMk.4が完成したのは高校三年の6月、そして翌月の7月7,8日に筑波で行われたMakerFaireっぽいイベント、筑波Prosume2010に大学受験前最後のイベント出展として、このMk.4を出展してきました。

パフォーマンスとしては普通に撃ったり、来場者の人に撃ってもらったり、

このように風船を圧縮空気の力で割るといったパフォーマンスをしていました。

ここでHiroshiさんが何かのペーパークラフトを持ってきまして、

ゆっくり魔理沙でした。


完璧に動作している。

そしてイベント二日目、


翌日はゆっくり霊夢に成っていました。

うーん、完璧に動作している。

スローで見ると更にひどい(笑) 一瞬で紙吹雪と化しているのがわかります。

ということでイベントは無事終了(?)。Mk.4も完璧に動作し、受験前ラストの良いイベントとなりました。

まとめ

現在の主流である「単管式」の基礎となったこのエグゾーストキャノンMk.4。部品点数も比較的少なく、半田付けやろう付けといった不安要素のある接合方法を全て廃しているため、とても信頼性の高い装置とすることが出来ました。二重筒式と比べ、ピストン重量が重くなるため、それがどれほど性能に悪影響を及ぼすかといった懸念事項も有りましたが、結果としてそれほど致命的な欠点ともならずに安心した記憶があります。

現在の設計と比較すると、依然としてまな板のピストンを使っていたり、ノズルのシーリングがゴム板であったりと、かなり見直すポイントは多いですが、初の筆者自ら考案した機構であり、また旋盤を用いてOリングを用いたシーリングを実装したりと、個人的に大きな進歩が合った機体です。

ちなみに現在このMk.4は解体され、Mk.18の部品として再利用されています。

2015.1.18 yasu

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