比重計による比重測定について

1. 浮秤式比重計(Hydrometer)

ウォートの比重を計測するにあたって一般的に用いられるツールは「浮秤(うきばかり)」または「浮(ふ)ひょう」を用いた比重計(Hydrometer)である。原理は極めて単純で、アルキメデスの原理として知られる「浮力」を用いたものである。溶液の比重が高ければ高いほど、ある深さまで物質を沈めた時に生じる浮力は大きくなり、その分物体は上方へ押しやられて平衡する。塩分濃度が高く比重も高い死海では、本来は沈んでしまう人やボーリング球が水面に浮かぶのと同じ原理だ。

溶液の密度は温度に依存するため、温度補正が必要である。大抵の醸造用比重計は20℃で校正されており、20℃からの溶液温度の差に応じてオフセットすべき比重の値が表としてパーッケージされている。それを用いずとも、醸造関連Webサイトや醸造ソフトウェアに搭載されている計算機を用いるのが便利だ。

例えばBrewer's FriendのHydrometer Temperature Adjustment Calculatorがある。

https://www.brewersfriend.com/hydrometer-temp/

浮秤式のメリットは何といっても原理がこれ以上無いほど単純な分、得られた値に信頼性があることだ。一方デメリットとしては計測の度に一定量のウォートないしビールを発酵容器から抽液しなければならない事がある。一回の測定に必要な最低量は70ml程度である。仕込みの規模が大きい場合には無視できる量であるが、一度の仕込み量が数Lの自家醸造家にとってこれはなかなか痛いロスだ。回数がかさめばいつの間にかボトル1本分くらいにはなる。また抽液のたびに雑菌汚染や酸化のリスクが高まるのも問題である。

2.屈折率式糖度計(Refractometer)

ホームブルワーにとっての浮秤式比重計のデメリットを解消するのが屈折率式糖度計である。中華ブランドであればAmazonで3000円以下で購入することができる。浮秤式と比べると測定原理はやや複雑である。

この計器はショ糖水溶液の濃度と屈折率に相関があるという性質を利用したものであり、溶液の屈折率からショ糖濃度(Brix値)を測定する事ができる。そしてショ糖濃度がわかればその溶液の比重も分かるため、間接的に比重を測定することができるのだ。屈折率の測定に必要なサンプルは溶液一滴だけで良いため、測定にあたってのロスと酸化汚染リスクが最小限に抑えられるのがメリットである。

ただし、使用にあたってはいくつか注意すべき点があり、それらについて以下で述べていく。

■ウォート比重の補正

上述のように、この屈折率式糖度計で分かるのはショ糖濃度であり、Brix値とも呼称される。Brix値とは20℃におけるショ糖溶液の質量パーセント濃度[wt%]である。例えば水溶液100gにショ糖1gが溶けている場合、そのBrix値は1%となる。ショ糖水溶液の濃度が判れば比重も分かるため、そのための換算式が用意されており、物によっては比重が目盛りに表示されている場合もある。

しかし、注意すべきはこうして得られた比重はあくまで純粋な「ショ糖水溶液」の比重であり、糖分の他に様々な物質を含んだ「ウォート」の比重はこれと異なるということだ。そのため、屈折率式糖度計をウォートの比重計測に用いるには、ウォート用に補正作業が必要となる。

例えばBrewer's FriendのRefractometer Calculatorでは、この補正のために「Wort Correction Factor」をまず最初に各々で求めることを要求している。

https://www.brewersfriend.com/how-to-determine-your-refractometers-wort-correction-factor/

何やら難しそうだが、要は「屈折率計で読み取ったBrix値」と「浮秤式比重計で計測した比重」を比較し、両者の関係を求めるだけだ。その関係を数値に落とし込んで勘定に入れればBrix値から正しいウォートの比重を求める事ができるようになる。

比較実験にあたっては、まず1.090程度の高濃度ウォートをつくり、両計測器で値を計測。それを徐々に希釈して都度計測を行い、幅広く多くの点でデータを集めると良い。

以上の比較より求めた、「読み取ったBrix値と実際のウォートのBrix値の比をパーセントで表した補正係数」がWort Correction Factor(WCF)である。たとえば読み取ったBrix値が20%で、測定したウォート比重から計算されるBrix値が19.05%であった時、そのWCFは20÷19.05で1.05となる。これはつまり、屈折率計のBrix値がウォートのBrix値よりも5%高いという事だ。

Brix値と比重の間には比例関係があるので、目盛りに比重が直接記入してある屈折率計の場合は、その比重をWCFで補正しても良い。例えば読取り値が1.050であった場合、そこから5%引きすれば1.048となる。

筆者が実際に計測を行った結果は以上のとおりである。WCFは1.059と計算され、この値を用いることで屈折率計の比重(Refractometer SG)から補正したウォート比重(Corrected SG)が計算でき、この値と比重計の値(Hydrometer SG)はほぼ一致している。

ここで例えば屈折率計の値が1.0835のときに実際のウォート比重は1.080と結構な誤差があり、以上の補正は屈折率計を使用するにあたって必須であることがわかる。

■温度の補正

溶液の屈折率は温度依存性があるため、測定にあたっては温度の影響を考慮する必要がある。しかし、大抵の屈折率計にはATC(Automatic Temperature Compensation)機構が組み込まれているため、使用者側での補正は必要なく、常に20℃における屈折率を表示してくる。ATCは屈折率計の自動温度補償機能であるが、日本語で調べてもその原理が不明でどうにも気持ち悪い。そこで海外のフォーラムを調べてみたところ、内部構造のイメージがヒットした。

内部にはバイメタル製の梁があり、その上に光学系が組まれているようで、温度変化に合わせてこの梁が伸縮し、温度による屈折率の変化を打ち消すように光学系の位置関係を補正してくれるようだ。なんとも精密な技術である。この機構は本体温度と溶液温度が同一であるとの前提で設計されているため、測定時には両者の温度を等しくするため滴下後に30秒程度放置することが推奨されている。

なお手持ちの屈折率計のマニュアルにはATCの補償可能レンジは10-30℃であり、これ以外はバイメタルの可動範囲外ということだろう。

■発酵中及び最終比重の計測

よく日本語の記事では「発酵が始まってしまうとウォート中にエタノールが生じ、比重と屈折率の関係が崩れるため、屈折率計による比重測定は適用できない」とあるが、そんな事は無い。ある量の糖分から生じるエタノールの量は一定であり、そのエタノールが屈折率へ与える影響も一定なのだから、初期比重が判っていれば発酵開始後の糖度と屈折率の関係もまた一対一で決まるはずだ。ということで大抵の醸造ソフトウェアや醸造ウェブサイトには、OGと屈折率計から読み取ったBrix値からその時の比重を推定する機能が搭載されている。

https://www.brewersfriend.com/refractometer-calculator/

しかしあくまでこれも推定は推定であり、利用は発酵のトレンドを観察する程度にとどめておき、FGはしっかり浮秤式の比重計で計測するのが望ましいと考えられる。

まとめ

以上を総括すると、OGと発酵中の比重は屈折率計で計測し、FGのみを浮秤式比重計で計測するのがホームブルーに於いて最も合理的であると考えられる。ただし屈折率計の使用にあたっては補正係数(WCF)の導出とその適用が不可欠である。