Diacetyl Rest
温調冷蔵庫ではじめてのラガー醸造に挑むにあたり、ラガーに特徴的な工程であるDiacetyl Restについて見識を深めるべく、以下の記事を翻訳した。
Brew Your Own " Controlling Diacetyl" : https://byo.com/article/brewing-science-controlling-diacetyl/
要約すると以下の通り。
- Diacetylがビール中に残存する原因は、「酵母による生成」と「雑菌による生成」の2つがある
- 酵母が誘導期、対数期にある時、酵母はアミノ酸であるバリンを生成し、このバリン生成における中間生成物であるアセト乳酸の一部がビール中に漏出、酸化されることでジアセチルが生じる。この酵母によるジアセチル生成は高温であるほど生じやすい
- 一方、静止期において酵母はジアセチルを吸収し、官能閾値の高いAcetoineと2,3-butanediolへ還元することができる
- ジアセチルレストは比重が最終比重+0.008-0.020に達したタイミングで、発酵温度を18-20度へ上昇させることで、静止期のジアセチル還元を促進する工程のことである
- ジアセチルレストをスキップし、たとえ瓶詰め時にそれが感じられなかったとしても、ジアセチルの前駆体であるアセト乳酸が高濃度で残存している可能性があり、その後の酸化によってジアセチルに変化する可能性がある。
- コンタミで導入された細菌によってもジアセチルは生成されるため、瓶詰め時には特に殺菌に気を使うべきである。また追加の対策として、瓶中に若干の酵母を緩衝材として残しておくことで、発生したジアセチルを吸収させる方法もある
↓以下全訳↓
ジアセチルの制御について
酵母は素晴らしい生物だ。酵母はパンやワイン、蒸留酒そしてビールの生産を担っている。酵母がビールを発酵させる時、500種以上の化合物を生成する。これらの化合物の多くはビールに特有の風味と香りを与える。これらの化合物の1つのうち、一般に歓迎されないものがジアセチルである。
ジアセチルはバター、バタースコッチのような風味をビールに与える。ジアセチルの官能閾値は、ライトなビール(バドワイザーやミラーなど)では0.1ppmであり、自家醸造ビールは、0.05から1ppmを超えるレベルを有することができる。ビールのジアセチル濃度に影響を及ぼす要因は、発酵温度、エアレーション、細菌汚染、そして酵母菌株である。ジアセチル濃度は発酵および熟成の過程で変化する。
■発酵の制御
ジアセチルは、ケトンと呼ばれる化学基に属する小さな有機化合物である。イーストがビールに投入された後、イーストは誘導期を経て、対数増殖期と呼ばれる急速な成長段階を経る。誘導期および対数期の両方において、酵母はアミノ酸、タンパク質および他の細胞成分を構築する。酵母によって生成されるアミノ酸の1つはバリンである。バリン生産における中間化合物はアセト乳酸と呼ばれる。生産されるアセト乳酸の全てが最終的にバリンになるわけではなく、そのいくつかは細胞からビールに漏出し、このビール中のアセト乳酸が化学的にジアセチルに変換されるのである。この化学反応とは酸化であり、発酵温度が高いほどこの反応は起こりやすく、ジアセチル濃度は高まるというわけだ。この段階でジアセチル生成を増加させるもう1つの要因は、栄養素の不足である。バリンは酵母の栄養素の内の一つであり、バリンの含有量は麦芽の種類によって異なる。十分なバリン(または他の酵母の栄養素)がない場合、酵母はバリンを自身で生成する。しかし、酵母がバリンを多く生成すればするほど、より多くのアセト乳酸が発生し、結果としてより多くのジアセチルが生成される。また酵母菌株により以上の現象は異なり、同一条件でも酵母によって生成するジアセチル濃度は異なるものになる。
■静止期
酵母の発酵が減速していくと、酵母は静止期に入る。このフェーズにおいてビールは熟成過程を経て、適切なフレーバーのバランスを獲得することになる。熟成に於いて重要な要素のうちの1つは、ジアセチル還元である。酵母はジアセチルの前駆体を生成するだけでなく、生成したジアセチルを消費し酵素的に還元する事ができる。酵母はジアセチルを再吸収し、それをアセトインに変換し、続いて2,3-ブタンジオールに変換する。アセトインと2,3-ブタンジオールはその官能閾値が高いため、どちらもフレーバーには大きな影響を与えない。
■ビールを休ませる
以上より、ビールの製造においてジアセチル還元に十分な成熟時間を与えることが重要である。この工程は一般に「ジアセチルレスト」と呼ばれており、このジアセチル還元は低温条件では遅くなるため、低温発酵のラガーを作る際には別途ジアセチルレストを組み込むことが不可欠である。このプロセスは発酵終了近くの2日間、温度をラガーの発酵温度(50〜55°F)から65〜68°Fに上げることである。通常、ジアセチルレストはビールが目標最終比重から+2〜5にあるときに開始される。このジアセチル還元後、温度はコンディショニングのため下げられる。エールビールの場合、発酵温度は通常65〜70°Fであるため、温度の変更は必要無い。確実に望ましいジアセチル還元を行うためには、以上の温度で2日間、発酵を 「レスト」させなければならない。一方、多くのブルワーは、比重が最終比重に近づくに伴って急速に発酵温度を下げてしまうという間違いを犯している。それは何故か? ビールが完成し、彼らは喉が渇いており、そうして飲んだビールにはジアセチルのフレーバーが存在しなかったとする。しかし、たとえジアセチルが感知されなかったとしても、このビールにはジアセチルに変化しうる前駆体、すなわちアセト乳酸が高濃度で含まれている可能性があるのだ。一度酵母を取り除いてしまったら最後、ジアセチルを処理する手段はない。
■コンタミによるジアセチル生成
ビールにバターのようなジアセチルフレーバーがのってしまう別の要因もある、それはブルワーがあまり触れたくない要素であり、それはつまりコンタミである。乳酸菌、PediococcusおよびLactobacillusはジアセチルを産生する。これらの細菌は歴史的に悪名高いビールのコンタミ要員であり、ビールスポイラーと呼ばれている。彼らは嫌気的でアルコールと熱にも耐え、すなわち彼らにとってビールの中は非常に居心地が良いのだ。バクテリアによって生産されるジアセチルは不快で酸っぱいバターのようなフレーバーです。小規模な醸造所やホームブルワーがビールの瓶詰めを行う際、乳酸菌を排除するのは困難である。この対策としては念入な殺菌、丁寧なボトリング、そしていくらかの酵母を緩衝材としてボトル内部に残すことが挙げられる。これら酵母はバクテリアを殺菌することは出来ないが、ボトル内部のアセト乳酸の酸化によって生じるジアセチルを減少させることができる。
■ジアセチルが歓迎される?
ほとんどのブルワーにとって、ジアセチルは発酵不良かコンタミを示唆する物質であるために、ビール中にジアセチルが存在することを望まないが、一部のブルワーは製品にジアセチルが含まれることを望んでいる場合もある。例えば、Redhook ESBは特徴的なジアセチルフレーバーを有している。これは採用した酵母株または発酵工程に起因して生じた可能性が高い。
いくつかの酵母菌株、特に凝縮性の高いイングリッシュエール酵母は、ジアセチル生産菌であることが知られている。 あるいは発酵温度を最終比重到達後に下げることで、ジアセチルレストが生じないようにすることもできる。このようにして生成された低レベルのジアセチルは、心地良いものであるケースがあり、スコッチエールやビターなどの多くの古典的スタイルにおいて、この低レベルのジアセチルを感じ取ることができる。
まとめ
- いくつかの酵母菌株はジアセチルを多く生産するが、そうでない菌株も存在する。ジアセチルの存在が許容されるスタイルを醸造する場合を除き、ジアセチル生成量が少ない酵母を選択すべきである。
- 高い発酵温度はジアセチル生産を促進する。
- 酵母投入時のエアレーション不足は、不健康な酵母を生み出し、ジアセチル生成量が増大する傾向がある。
- エールはラガーよりも発酵温度が高いため、エール発酵はより多くのジアセチルを生成するが、その減少もずっと速く起こる。
- ラガー発酵は、発酵終了直前に発酵温度を上昇させることにより、「ジアセチルレスト」を行う必要がある。
- ジアセチルレストの開始時期を見極めるため、比重計を使用する必要がある。 ビールが目標最終比重の+2〜5ポイントに達した時、ジアセチルレストを行う。
- 発酵は決して急ぐべきではなく、 熟成のためにビールに十分な時間を与える必要がある。
- 雑菌汚染によるジアセチル生成を防ぐため、ボトリング時には特に衛生に注意を払う必要がある。
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