Astringency(収斂味)の原因と対策

完成したUBL-036 グルコースヴァイツェンおよびUBL-037 グルコースデュンケルヴァイツェンを飲んで強烈な違和感を感じた。飲んだ後に舌の奥に残る、酸味と渋味の混ざったような物理的な不快感。完全に失敗である。今までに作ってきたビールにも僅かにこれが感じられることもあったが、ここまで強烈なのは今回が初めてである。この不快感を特定すべくいろいろと調査をした結果、どうやらこのオフフレーバはAstringency(収斂味)と呼ばれる渋みらしいことが分かった。

■収斂味(Astringency)とその原因および対策

収斂味とは口中をしめつけるような感じを与える味のことである。舌・頬の内側・唇の内側・歯茎などの細胞を収縮させることにより感じる触覚に近い感覚と考えられており、味覚の神経細胞を刺激することにより感じる味とは異なる。

参考:灘酒研究会 灘の酒用語集 収斂味(しゅうれんみ)

やはりあの感覚は味ではなく刺激であった。原因物質として代表的なものはタンニン等のポリフェノールらしく、これは麦芽の中でも特に麦芽殻(Husk)に多く含まれているとのこと。醸造工程でこのタンニンが過剰に溶出すると、完成したビールに渋みが残り、それが後味を悪化させるのである。

ということでまずは情報を仕入れるため、次のWebサイトを参照してみた。

Beer Smith Homebrewing blog : Astringency from Grains – Oversparging and Hot Sparging Your Beer

Craft Beer & Brewing : Off-Flavor of the Week: Astringency

以上の情報に基づき、Astringencyの防止策、すなわちタンニン等のポリフェノール対策について下記にまとめてみる。

■穀物の過剰な粉砕

タンニンの含有量が高い麦芽殻を細かく粉砕すると、ウォートへのタンニン溶出が過剰になることがある。破砕に製粉機を使ったり、モルトミルの目が細かすぎる場合に生じる可能性がある。適切なモルトミルでクラッシュした麦芽はその芯を細かく粉砕しつつ、麦芽殻は大きな破片のまま残してくれる。デュアルローラミルを使った場合、このような挽き方を容易に達成できるとのこと。

■高いマッシュpH

マッシュのpHが高すぎるとタンニンの溶出が促進される。マッシュのpHは穀物を混ぜた後、5.2-5.5の範囲にある必要がある。pHメーターやpHシートなどを用いてpHを測定し、調整が必要であれば水質調整剤やアシッドレスト、アシッドモルトを使用することによって適切な範囲に調整する必要がある。なおダークモルトは酸性が強く、マッシュのpHを低下させる傾向があるため、pH上昇は主としてライトカラーのビールにおいて問題となる。

■高温、長時間、低濃度でのスペシャルモルト浸漬

スペシャルモルトからの成分抽出にあたって、高温、長時間、低濃度条件はいずれも過剰なタンニン溶出を促進する可能性があるため、温度は76℃以下、時間は30分以下とするのが目安である。

■高温多量のスパージング

通常、水のpHは中性の7であり、スパージングを行えば行うほど元々酸性側に傾いていたグレインベッドのpHは中性側へ上昇していくことになる。目安としてはpHが6を超える、または目標比重のおよそ20%未満までスパージングで得られた麦汁の比重が低下すると、タンニン溶出が促進され始める。そのため比重かpHを監視し、過度なスパージングを防止することがタンニン溶出には効果的である。比重について、目安は通常の比重のビールでは1.008~1.010を下限値とするのが良い。またスパージング温度が高ければ高いほどタンニンは溶出しやすくなり、76℃以下でスパージングすることが推奨される。またスパージング水のpHを下げるために乳酸を添加するのもアリである。

以上の記事を踏まえると、今回のヴァイツェン二種類で生じたオフフレーバーは収斂味であり、過剰なタンニン溶出によって引き起こされた可能性が非常に高い。というのも自身の仕込みを振り返ってみると、当てはまる要素がかなりあるからだ。

■マッシング時間

ヴァイツェンのマッシングではアシッドレストを工程に含めているため、マッシュアウトまでの所要時間は非常に長い。UBL-036、UBL-037ではいずれもマッシング開始から終了まで約2.5時間かかっており、その間ずっと麦芽が液中に浸った状態にある。これは他のレシピが1.5時間程度でマッシングを終えるのに対して非常に長い時間だ。以上の記事中では触れられていなかったが、固相から液相への成分溶出量と浸漬時間には当然のごとく相関関係があるため、長ければ長いほどタンニン等の余計な成分の溶出量は増えることになる。

■マッシング濃度

両者ともグルコースを後入れする分、マッシングでの麦芽濃度はやや低くなっている。同じマッシングで同じ初期比重のUBL-035ヴァイツェンでは強烈な収斂味は感じなかったが、そことの差はグルコースの有無による濃度差から来ていると推定する。物質移動を記述したフィックの法則から明らかなように、麦芽とウォート間の濃度勾配が大きければ大きいほど麦芽からの成分溶出流束は大きくなるため、不要物質の量も増えると考えられる。

■多量のスパージング

最近の自分の仕込みはスパージング量が非常に多かった。UBL-036では5Lの仕込み量に対してスパージング量は約3L、UBL-037では4Lに対して5L近く突っ込んでいる。また上述のように両者ともグルコースを後入れする分麦芽量は少なく、この多量のスパージングによってpHが上昇、更にどんどん水が供給されるため、麦芽殻から水へのポリフェノール溶出が一気に加速したものと考えられる。

■ダブルクラッシュモルトの使用

BIAB方式でマッシングをするに当たり、モルトはすべてダブルクラッシュのものを使用している。挽きすぎというわけではないが、少なくともシングルクラッシュよりはポリフェノールの溶出が促進されるのは間違いない。


以上のように、今回の仕込みを振り返ればタンニン等ポリフェノールを出すためのレシピと言われても仕方がない状況となっている。しかし言い方を変えればこれらの手続きは糖分回収効率を上げようとして工夫を重ねた結果とも言える。実際、UBL-036では75%、UBL-037では84%!の糖分回収効率を達成している。しかしそれに伴って不快な成分までが抽出されたら元も子もない。マズいビールが大量に出来上がる事ほど恐ろしいことはない。

■実際に取っていく対策

以上の反省を元に、今後の仕込みに反映する事項をまとめる。

■スパージング

まずはpHを測定することが先決だろう。今までは75℃1Lの後、常温のボトルウォーターで2L以上のスパージングを行ってきた。その各所で得られる麦汁のpHを記録し、何L程度のスパージまでが許容されるのかを調べ、それに基づいてスパージング量を決定する。しかしここでも欲張らないことが重要と思う。またIPAを作る際に投入する石膏(CaSO4)にはpHを酸性に傾ける作用があるため、スパージング水に予め石膏をすべて溶かしておくのも手である。またアスコルビン酸(ビタミンC)も同じく水溶液を酸性に傾けるが、こちらは還元作用があるため酸化防止剤としてビールに添加されることもある。そのためマッシング水にアスコルビン酸を溶かしておき、pHを下げておく事で酸化とポリフェノールの溶出を抑えたスパージングが達成できる可能性がある。

■マッシング

スパージング量の減少に伴い、糖分回収効率は下がるため、その分麦芽量を増やす。またマッシング時間はできる範囲で短くし、途中の激しい撹拌は抑える。pHについても念の為測定し、必要であればアスコルビン酸で補正を行うことを検討する。(麦芽の酸化を抑える目的でとりあえず入れてしまっても良いかもしれない。

■モルトのクラッシュ

モルトのクラッシュについてはひとまず保留として、上記の改良の後、それでもなお問題があるようならマッシング時間が長くなるヴァイツェンについてはシングルクラッシュを使用することを検討する。


従来は糖分を根こそぎ回収しようと考えがあったが、それを捨て材料のトロの部分だけを集めることを意識する。いっそスパージング無しとアリで仕込んで両者を比較するのも大アリである。

ていうかこれはつまり某大企業の「一番搾り製法」そのものではないか…

ということで調べてみると、南横浜ビール研究所で一番搾り製法によるバッチへの影響調査が行われていた。

http://beerlabo.hatenablog.jp/entry/2018/02/08/133131

http://beerlabo.hatenablog.jp/entry/2018/03/02/172207

どうやらやはり結構違うようである… これは実験が楽しみだ。