UBL-034 Mosaic Session IPA
Session IPAとはその名の通り、Drinking Session (飲み会) に向くようなドリンカビリティに優れたIPAのことである。より具体的に言えばIPAの特徴である鮮烈なホップのフレーバーはそのままに、高いIBUとABVを低く見直したものである。そこでIBUについてはWhirl Pool HopingやDry Hopping等のアロマを選択的に付与する手法で強烈なアロマと低いIBUを両立する。一方、ABVについてはただモルトの量を減らしただけではアロマとのバランスが崩れてしまうため、グレインビルとマッシング温度に工夫を加えてOGは低くともリッチなモルト感を維持する事が重要となる。
とはいっても、IPAのレシピ構築については全くの無知。まずは先人の知恵にあやかることにした。
海外のHome Brew文化は圧倒的で「ビール名称 Clone」や「ビール名称 Recipe」と調べれば、有名な銘柄のビールについてはだいたいレシピに関する記事ないしスレッドがヒットする。日本じゃまずありえない状況である。ということで上述のSession IPAの銘柄について、Clone Recipeを調べてみた。調査の結果、Karl StraussのMosaic Session IPAについてクローンレシピのスレッドがヒットした。
https://www.homebrewtalk.com/forum/threads/karl-strauss-mosaic-session-ale-clone.550110/
公式から提示されている情報を元に、レシピを組んだとのこと。公式サイト及び開示されている基本スペックは下記の通り。
https://www.karlstrauss.com/beer/mosaic-session-ipa/
ABV : 5.5% / SRM : 11 / IBU:45
Malt: Pale Malt, Wheat Malt, Crystal Malt (C10)
Hop : Mosaic
以上のスレッドを元に、私が採用したレシピが以下である。
Batch Size 8.0L
Malt : Maris Otter 74%, Wheat Malt 16%, Calapils 8%, Flaked Oats 3%
Hop : Mosaic(Boil 11min), Mosaic(Whirl Pool 30min), Mosaic(Dryhop 3 day)
Yeast : WLP-001
Mashing : 68℃ 90min 75℃ 10min
Boiling : 90min
Fermentation : 19℃ 2weeks
基本はスレッド記載のレシピ通りだが、ホップの投入タイミングは二回に分けて投入していたところを同IBUが得られる条件で一回に纏めてみた。同じIBUが得られるなら投入タイミングはシンプルで行きたい。
レシピの解釈としては、ベースモルトはMaris Otterでそこに甘みを付与するためCalapils、そして口当たりをリッチにすべくWheatとOatsを加えた形である。マッシング温度はボディ重視の68℃。煮沸は90minしっかりとって、DMSをしっかり飛ばす。発酵温度は標準的な19℃で一定。
振り返ってみると、オーツ入れたりマッシング温度が高かったりと、ボディが高すぎる仕上がりになる予感で、ドリンカビリティが損なわれそうである(本記事執筆時はすでに仕込みが完了している… しかしとにかくは、これで一回仕込んでみて、そこからの微調整を行っていけば良いわけだ。
2018/10/26 仕込み
という事でどんどん作っていく。Mashing はSingle Infusion なので特に難しいことはない。今回はバッチサイズを8Lとしているのでマッシュタン中のマッシュ濃度がとにかく高い。かき混ぜるのも精一杯だし、麦芽の濃度が高いことでマッシュ全体の熱容量が下がり、冷えやすくもなる。(穀物の比熱は水の40%程度しか無い)やはり9Lの鍋では限界があるというもの。早いとこでかい寸胴鍋を調達したいところだ。
煮沸とWhirl Pool Hopping、冷却が終了して発酵容器に移すタイミングである。Boiling とWhirl Pool Hoppingではホップバッグを使用していない(使わないほうがウォート全体に成分が行き渡りそう)ので、このタイミングでろ過している。大鍋から小鍋へザルとネットをつかって漉す。
石見式醸造法の象徴であるポリ袋にウォートを入れ、口を縛ってエアレーション。その後、温調冷蔵庫に未開封のイーストパックと共に放り込み、発酵温度の19℃定常になるまで放置する。こうすることでピッチング時に酵母が急激な温度変化にさらされないで済み、酵母へのストレスが減る。温度計は右図のようにケースとポリ袋の間に埋没させる形で十分計測可能なようだ。熱容量が大きい+時間的に緩慢な体系はありがたい。
今回、初の石見式醸造法を試してみたのだが、課題となったのはポリ袋のハンドリングである。ポリ袋にウォートを移送した後も、やらないといけない工程はいくつかある。具体的にはエアレーション、比重温度計測、希釈、比重温度再計測である。ポリ袋の場合、エアレーションをすることで飛沫がポリ袋内面に飛び散ることになるため、比重計測のためにポリ袋を開いた際にその飛沫が垂れてきたりでかなり厄介だ。糖分を含んだ液体が発酵容器付近に付着したまま放置されると雑菌の温床になりかねない。
そのため、次回の改善として、エアレーションから比重調整までは従来どおり梅酒瓶で行い、あとはピッチングを残すまでといったところで初めてポリ袋で移送しようと思う。これなら作業は容易かつ雑菌汚染リスクも抑えられる。
冷蔵庫内温度が定常になったらピッチング。今回使用するのはCalifornia Ale YeastのWLP-001。袋とハサミをドーバーパストリーゼで殺菌してから開封、ピッチング。完璧である。あとは冷蔵庫が勝手に温度を維持してくれる。今まで極寒の屋内にいたときとは大違いである。やったぜ。
サーモスタットの示す発酵温度を確認してみると、19.0から19.2℃の間を推移しているようだ。設定温度が19.0℃、クーラーOFF後の再始動のための温度差(Differential)を0.2℃に設定しているため、そのとおり動いている事がわかる。ペルチェの出力に対して対象の熱容量が大きいため、オーバーシュートは無い。Differentialを0.1にすると設定温度付近での動作が不安定になるため0.2℃のままとして、設定温度を18.9にすれば平均で19.0ちょうどになる。そのように再設定しておいた。
2018/11/4 発酵開始後9日目
発酵容器の様子を確認してみると、もう一次発酵はほとんど終わったようで、酵母は底部に沈んでいる。そしてなんといっても特筆すべきは冷蔵庫を開けたときのフレーバーである。とにかくトロピカルなアロマが冷蔵庫からブワーッと吹き出してくる。これはすごい。やっぱりモザイクは偉いな。
冷蔵庫の温度調整も完璧に動作している。±0.1度での温度管理は継続しており、追加で購入したシンワの棒温度計を突っ込んでみても同一の値が得られている。次からの再現性は完璧である。
2018/11/12 瓶詰め
ピッチングから2周間後、瓶詰めの日がやってきた。
瓶詰めに当たり、ラッキングを行うのをやめ、極力ビールの酸化が起きないようなプロセスに見直してみた。ビールが触れる可能性のある空間は全てCo2によるガスパージを行い、すべての操作は極力静かに行った。
瓶詰めが完了。7.5Lの仕込み量に対して瓶詰めできた量は6.27Lで仕込み量の84%といったところ。
また今回はホップの香りが重要なS-IPAということで、カーボネーションの温度について実験をすることとした。
■ナチュラルカーボネーション温度がビール品質に与える影響
通常のエールビールのカーボネーションは常温で行うが、この工程を見直す。一般に瓶詰完了後の時間経過と温度上昇は品質劣化をもたらす。これは温度と時間の積が大きければ大きいほど、ビールに含まれるアロマ成分は減衰し、一方で渋みや残存酸素による酸化が進行するためである。厳密にいえば常温で酵母はジアセチルを代謝したりとオフフレーバを吸収する役割も持つが、最初から極力それらの原因成分を廃した仕込みができていれば、美味しさの理論値は「瓶詰め即冷蔵」に収束する。
瓶詰め直後に冷蔵することで問題となるのはエール酵母によるナチュラルカーボネーション工程である。冷蔵庫温度はエール酵母の活動温度域から大きく外れているため、この環境下では全くカーボネーションが進まないと考えられる。
そこで今回は冷蔵環境でもカーボネーションを行えるよう、ラガー酵母によるカーボネーションを検討する。周知のとおりラガー酵母の発行可能温度は低温域であり、例として乾燥ラガー酵母S-23の推奨温度域は10-20℃である。冷蔵庫内温度はそれよりもやや低い5℃程度だが、経験上多少温度が低くてもカーボネーション程度であれば問題なく活動する。少なくともエール酵母よりはマシというわけだ。
ということでサンプルをAとLの2つに分けた。前者はエール酵母による常温カーボネーション、後者がラガー酵母による低温カーボネーションである。
ラベルも完成。今回から視認性向上のためにデザインを刷新した。印刷費はかかるが様になる。
Taste Note
■2018/11/17 A試飲
カーボネーション弱し。泡持ち悪し。明瞭で強いマンゴー。程よくヘイジーでボディがしっかりある。しかし、プライミング糖分がまだ残っていると考えられ、甘みが強い。糖分が代謝されればさらにドリンカビリティは上がる?オフフレーバーのようなものはない。
■2018/11/21 A試飲
相変わらずカーボネーションは弱く、泡持ちも悪い。泡はややきめ細かい。注いだ直後のアロマは濃密なマンゴー。飲むと薄ら甘いが、前回よりもましになっている。口当たりは非常になめらかでかつドリンカビリティあり。ボディも丁度よい。これ以上濃いとドリンカビリティに影響が出そう。どんどん飲める。香りは単調であるものの、ビールとしてのレベルは今までよりもずっと高い。オフフレーバーが無いのが良い。
■2018/11/26 L試飲
カーボネーションは非常に弱い。香りは目が覚めるマンゴー。エール酵母よりも低温貯蔵の分、香りが強く残っている?ボディは丁度よい、僅かに甘さが残るため、カーボネーションはもしかしたらまだ未完かもしれない。カーボネーションがしっかりすれば、いける気がする。オフフレーバーは無いのだが、やはり香りは単調と言わざるを得ない。複雑味がほしい。柑橘系のホップ(マンダリナ?を大量に加えても良い気もする。
■2018/12/3 L試飲
カーボネーションOk 泡はきめ細やかだが、泡持ち悪し。香りは濃密なマンゴーをはっきり感じる。飲んでみるとカーボネーションがしっかりしている分、爽快感が増している。比重は低めだがそれを感じさせないボディ感あり。なかなかにうまい。しかし、ややボディが強すぎてくどい感じがある。オーツは省いてそれを小麦に変えた方がドリンカビリティがある可能性あり。しかし更に比重を下げるならオーツはそのままのほうがちょうどよいかもしれない。しかし、うまいIPAを飲んだときの下に突き刺さるような初速は無い。香りが平坦なイメージは依然としてある。