UBL-037 Dunkel Weizen Bock

ヴァイツェン酵母が余っているのでDunkel Weizen Bockを作ることにする。目指すコマーシャルビールは自分の大好きなSchneiderのAventinus Weizen Bockである。参考にした記事は以下。

https://byo.com/article/dunkelweizen-style-profile-2/

以上の記事に記載のレシピを元に、今回採用したレシピは以下

Batch Size : 4.5L
Fermentables : Wheat Malt 45%, Munich Malt 20%, Maris Otter 16%, Special B 11%, Crystal 60L 5%, Dextrose 3%
Hop : Tettnanger
Yeast : Imperial Stefon G01
Mashing : 45℃ 20min → 65℃ 90min → 75℃ 10min
Boiling : 90min
Fermentation : 18℃ 3days → 20℃ 11days

モルト等の比率が謎なのは自宅にあるものを組み合わせているところがあるからだ。WheatとMunichをベースモルトとして、Wheatの不足分をMaris Otterで補っている。そこにカラメル、ロースト、トフィー風味をつけ、ダークな色調を付与する目的でCrystal 60°LとSpecial Bをあわせている。オリジナルのレシピではよりLovibondeの高いCarafaⅡが指定されていたのだが、あいにく手元になかったためにSpecial Bを代用として用いている。またバナナ風味を増強する目的でDextrose(ブドウ糖)を加えることとした。記事中にはエステル由来のフレーバが支配的にならないようバランスに気を配ることが大事とあるが、まずはやってみないことにはバランスも何もない。

ホップはジャーマンホップのTettnangerオンリー。IBUは低く抑える。

マッシングは今までどおりのステップマッシング。フェノール香の確保のためのAcid Restを行い、その後Saccharification Restとしている。Saccharification Restの温度は64~65°のやや低温を狙う。これは今回のグレインビルではスペシャルモルト比率が高く、高温マッシングではボディが強くなりすぎる事を恐れてのことだ。

煮沸時間はDMS除去のために念の為90分と長めに取る。今回はバッチサイズが小さいため、極力濃縮するという意味合いもある。

発酵温度は最初の3日はオフフレーバーの生成を防ぐため低めの18℃とし、それ以降は豊かな発酵由来のフレーバーを生み出すために20℃に昇温する。

2018/11/17 仕込み

仕込みにあたって今回はSous Videを用いず、カセットコンロを使用した。Sous Videは撹拌しているうちは温度が一定に定まるのだが、逆に言えば常に撹拌し続ける必要がある。カセットコンロでは昇温→熱放散のサイクルを繰り返すことになるが、結果として狙った温度を中心に温度が上下していれば、時間平均温度※は狙った値になる。糖化なんてそこまでシビアなものでもないし、装置のセットアップ的にも圧倒的にカセットコンロの方が楽なので、多分今後もそうやって行く。今回の仕込みでは、Acid Restの時間平均温度は45.2℃、Sacccharification Restの時間平均温度は64.5℃であった。概ね狙ったとおり。

※時間平均温度とは、温度を時間で積分し、それを全経過時間で除したものだ。

また今回は潤沢にスパージングをしてみた。まず、75℃の湯を1L、次に2L の常温ボトルウォーターの計3Lを浴びせた。これは褐色のウォートであったため、極力SRMを高くしたいという考えに基づく。

そして、煮沸完了後、冷却して梅酒瓶に一度移したのだが、ここでマッシング効率を計算するとまさかの84%となっており、手持ちの酵母で醸せる限界量を遥かに超えてしまっていた。考えられる要因としては3つ

①麦芽量に対してマッシングの湯量が多かった

②全140分間の非常に長い全マッシング工程の内、その半分の70分間ずっとマッシュを撹拌していた。

③3Lものスパージングを行った

これは歓迎されるべきことなのかどうかは個人的に悩むところだ。ここまで効率が高いと、余計な不純物までもが抽出されている可能性がある。

結局、適当に希釈して多すぎる分は破棄して調整し、ピッチングした。

今回もUBL-036と同様、ポリ袋を使う石見式を使っての仕込みだが、濃度調整、エアレーション、ピッチングについては前もって梅酒瓶で行っておくことでかなり工程が楽になった。やはり梅酒瓶は優秀な容器である。

今回用いているプラ容器は今回新たに調達したもの。10L程度の容積がありつつも、137Lクラスの冷蔵庫内寸法に対して神シンクロするため、6-7Lの仕込量なら4バッチ並行での発酵が可能になる。実際にはそこまで同時に仕込むことはないだろうが、あるに越したことはない。

2018/12/02 ラッキング&瓶詰め

二週間の発酵期間を経て、ついに瓶詰めの時が来た。このときから、リキッドの酸化防止対策に積極的に取り組むようになった。今回のラッキングでも、梅酒瓶は予めCO2ガスでパージし、液移送時も常に発酵容器内部にCO2ガスを導入し、空気と液体が触れる確率をできるだけ下げるよう工夫を行った。

そしてようやく、UBL-037 TRAUBENZUCKER DUNKELWEIZENが完成した。

TRAUBENZUCKERはドイツ語で「ブドウ糖」である。Dunkelweizenがドイツ語なのにそれにつく形容詞がどれも英語っだったりするのに個人的に違和感を感じていたことに対する自分のやり方がこれである。作品は細かいディテールに拘ってこそである。某戦車道アニメもPanzerがドイツ語であるからandはしっかりundになっているのだ!!!

ラベルのカラーリングは青と紫を基調とし、これは自分の愛するデュンケルヴァイツェンであるSchneiderのTap6 Mein Aventinusへのリスペクトである。願わくば、かのビールのような濃厚で複雑なアロマをまとったリキッドができれば良いとの願いを込めた。

テイスティングとか

瓶詰めから1週間後、恐る恐る飲んで見る。グラスから注いだ際のカーボネーションは極めて良好。スタイルどおりGV3.0程度の激しい発泡があり、泡のきめ細やかさ、そして泡持ちも非常に良好である。外観は濃く濁ったダークブラウンで、グラスの反対側は見えない。ここまではスタイルとして完璧だ。アロマも非常に良い。あまり形容詞を持ち合わせていないが、ダークエール特有のローストモルトの香ばしい香り、そしてその後にエステル由来の香りが来る。しかし明瞭なバナナを感じるわけではない。

では味はどうか。飲んでみると驚嘆した。とにかく渋い、渋すぎる!これは渋すぎて飲めんわ!

とにかくフレーバーが渋いのだ。舌の表の奥で感じ、飲み込んだ後も持続する渋さ。結局ボトル一本飲み切ることはできなかった。

この強烈な渋さについて調べてみた所、原因はタンニン等ポリフェノール類であると推測される。ビールにおける渋さを英語で表現すれば「Astringency」となり、その単語で調べると様々に原因と対策がヒットする。調査結果は以下のページに纏めている。

https://sites.google.com/site/uzmlab/ubl/brewing-techniques/astringency-control

要するに、pHを調整せずに大量のスパージングを行ったのが今回の強烈な渋さの原因である。大量の湯でスパージングを行ったことで、マッシュのpHがほぼ中性の7近傍まで上昇し、流れ込む大量の湯にポリフェノール類が溶け出したのだと考えられる。またアシッドレストを含むステップマッシングを採用したため、マッシング時間が長すぎたのも原因と考えられる。今回の仕込ではマッシング開始からグレインバッグの引き上げまで2.5hを要しており、通常のマッシングスケジュールでは長くて1.5h、早ければ1hほどで完了することを踏まえると極めて長い。マッシング時間が長引けば長引くほどマッシュへのポリフェノール類等の不要物質が移行量が増大することは間違いない。実際、過去にうしとらブルワリーイベントにてヘッドブルワーの植竹氏に伺った話でも、きれいなビールを作るためには極力マッシング時間を短くし、麦芽とウォートが触れている時間を短くすべきだとの助言を頂いている。

ということで、次の仕込に活かすべき要素が明確化された今回のバッチであった。

2019/01/10 再テイスティング

あの強烈な渋みの経験から一ヶ月が経過し、どんなもんかと再びのテイスティングを行った。なお、この間の貯蔵温度は10-20℃の範囲である。

カーボネーションは強く、スタイルどおり。泡は非常にきめ細やかで、塊が目視できないレベル。泡持ちも素晴らしく、注いでから1分たっても泡が消える気配はない。アロマは濃厚でダークな物。麦のロースト感を感じた後、甘いレーズンやバナナのような香り。わずかに酸味を感じる。

では、フレーバーはどうか。驚くべきことに、前回感じた極めて強烈な渋みは落ち着いていた!わずかにまだ渋みと酸味を舌の奥に感じるが、両者ともだいぶ穏やかになってきている。悪くない。問題なくボトルを空けられるレベルに落ち着いてきた。

以上の時間経過に伴う渋みの減衰は、同じくタンニン等ポリフェノール類を非常に多く含む赤ワインについても同様に見られる現象である。赤ワインの熟成機構を調べてみると以下のことがわかった。

  • 赤ワイン中に含まれるポリフェノールは同じくワイン中に含まれる酸素と反応(消費)し、他の物質と結合することで分子サイズが大型化する。(見方を変えれば、ポリフェノールはワインの抗酸化剤として作用する)
  • 自らが重合することによっても分子サイズが大型化していく。
  • 以上の機構で高分子となったポリフェノールは、ワイン中に溶けていられなくなり、最終的に澱として沈殿するため、熟成に伴ってワイン中のポリフェノール濃度は低減していき、それに伴って渋さも低減していく。

(出典:https://www.nodai.ac.jp/hojin/journal/images/j_0909/p6.pdf

今回のバッチの貯蔵期間はせいぜい1ヶ月程度であり、赤ワインの貯蔵期間のオーダーからしたら極めて短いものだが、ポリフェノールが抗酸化剤として作用すること、重合して澱として析出し濃度が低減するというのは興味深い内容である。

また渋みについては液温が低いほど際立つという特徴も赤ワインでは一般的らしく、今回のバッチについても15℃程度まで温めてから飲んだ場合と冷やして飲んだ場合で大きく差が出るかもしれない。

ということで、このバッチについてはあと少なくとも1~2ヶ月は放っておいてから、温度をしっかり上げて試飲してみようと思う。また過去に醸したヴァイツェンボックでは1年の熟成後そのアロマの複雑さが飛躍的に増大したという事例もあるので、何本かは半年くらい置いときたいなと思うところだ。