大阪のCraft Beer Base Seedに立ち寄った際、ビアへるんのヴァイツェンが売られていた。
そうして買って家で飲んだビアへるんヴァイツェンはやっぱり凄まじく甘く濃厚で、クローブバナナのバランスの取れた、それでいて強烈な香りが素晴らしく、こういううまいヴァイツェンを作りたくなってきた。
今まで何度かヴァイツェンは作ってきたが、成功したと言えるのはUBL-015のYAGI Weizen Bockだけで、それ以外はどれも王道道レシピから外れた変なことをしている。
ということで改めて基本に立ち返り、ちゃんとヴァイツェンをつくることにした。
参考にしたのはこの記事。(記事全訳はこちらにまとめている。)
https://byo.com/article/german-hefeweizen-style-profile/
以上の記事のポイントとしては以下
■ヴァイツェンに限らずビールにとって何より大切なのはバランスである
初心者ブルワーが陥りがちなミスとして、ヴァイツェンの最大の特徴であるバナナ香やクローブ香だけに注目して、それらをいたずらに増強させたビールを作ることがあるが、大抵の場合、それらはモルトの風味を上回り、バランスが崩壊したひどいビールとなってしまう。
■ヴァイツェンのモルト構成はシンプルにすべきである
基本はピルスナーモルトとウィートモルトのみ。泡持ちとボディを向上させるために若干(最大5%)のデキストリンモルトを加えるのもアリ。しかしそれ以上のモルトを加えることを考えるなら、醸造プロセスを精査するのが先である。
■アシッドレストでクローブ香を生み出す
ビアカップのヴァイツェン部門で連勝経験を持つブルワー曰く、ヴァイツェン醸造において重要なのはアシッドレスト。
43℃のアシッドレスト工程はFerulic acid(フェルラ酸)の加水分解を促進し、イーストはこのフェルラ酸を用いてヴァイツェンに於いて重要なフェノール香(クローブ香)の成分である4-vinyl guaiacolの生成を促進する。
■モルトの甘さとIBUのバランスをとれ
甘さと苦さのバランスは半々か僅かに甘い程度。甘すぎるのはよくない。目安としてはIBUをOGで割った値が0.2になるような関係がよい。
本記事での推奨レシピではIBU:13に対しOG:1.049であるからIBU/OG=12.39となってしまい、お前言ってることとやってることがぜんぜん違うじゃねぇかと思ったが、色々調べたらOGについては頭の1を取って1000倍した値を計算に用いるようだ。記事中のレシピで計算すると13/49=0.265。参考記事中で述べられていた代表的なスタイルについては以下の通り
American Amber: 0.619
Traditional Bock: 0.346
Blonde Ale: 0.467
American Pale Ale: 0.714
Brown Porter: 0.576
English IPA: 0.800
Weizen/Weissbier: 0.240
Belgian Trippel: 0.375
■発酵温度は17℃
なんかいいらしい(理由不明)(高すぎるとエステルが前に出すぎてバランスが崩れるということだろうか)
■ピッチングレートは変えるな
発酵特性をいじるためにピッチングレートを変える手法もある。ピッチングレートを低くする(アンダーピッチング)と、その分酵母の増殖回数が増え、増殖によって発生するエステルの量が増える→バナナ香が増強されるというのは初心者ブルワーがやりがちな方法だが、発酵温度、エアレーション、イーストの状態の振れに起因して発酵不良を起こす可能性が高いため推奨しない。またオーバピッチングもイーストの増殖を妨げる要因となり推奨されない。仮にそれら発酵に係るパラメータをいじりたいなら、必ず動かすパラメータは一つだけにするべきである。
今までの自身の考え方としてはまさにこの記事における初心者ブルワーのそれである。
過去に飲んだうまいヴァイツェンの記憶として、「甘くておいしい!」「バナナの香りが強くて幸せ!」等の解りやすい要素だけが残った結果、それらを増強すれば自分の求める最高のヴァイツェンができると考えがちだが、実際はバランスの上にそれらは成り立っているということだろう。
ということで、今回はシンプルに行きます。
■原料
今回は同じヴァイツェンスタイルを2バッチ同時に仕込むことにした。
両者の違いはデキストリンモルト(カラピルス)の有無である。
デキストリンモルトの効果はボディの増強と泡持ちの改善が挙げられ、以上のGerman Weizenに関する記事においてもモルト比率として5%まで添加することが許されている。
デキストリンモルトは非発酵、非糖化性のデキストリンを多く含むため、マッシング中も発酵中もその分子は変化せず、最終的にビールに残存し、結果としてボディを高めることになる。また最終比重もその分上昇する。
実際、過去にうしとらブルワリーの植竹先生にヴァイツェンのコクを高めるにはどうすればよいかと伺った際にも、デキストリンモルトは有効だと話していた。(その際には10%を上限と考えるべきとの話も頂いた。
今回はこのデキストリンモルトをヴァイツェンに加え、ボディを強めた濃厚なテイストを獲得できるか否か、比較実験により検証する。
下記に今回醸造する2バッチのモルト構成をそれぞれ示す。
■UBL-024 Hefeweizen Mk.4
Wheat Malt : 50 %
Maris Otter : 50 %
■UBL-025 Hefeweizen Mk.5
Wheat Malt : 50 %
Maris Otter : 42 %
Dextrine Malt : 8 %
両者ともベースはPale MaltとWheat Maltのハーフアンドハーフ。UBL-025についてはPale Maltの内8%をデキストリンモルトに置換した。 上記記事の推奨上限量と植竹氏の経験則の中間を取る形である。発酵完了後の両者を比較することでデキストリンモルトのボディ増強効果を確認する。
Pale Maltとしてはコクと香りに定評のあるMaris Otterを採用した。この特性で持ってヴァイツェンにもいい影響を及ぼしてくれないものか。
イーストにはHefeweizen用イーストとして圧倒的な信頼を置くWhite LabsのWLP-300 Hefeweizen Yeastを使用する。
安価で簡単に手に入るWeizen用のドライイーストとしてはFermentisのWB-06が有名だが、インターネットにおける情報を観るにいい評判はあまり聞かない。今回の試行に於いては失敗を酵母の妥協のせいにはしたくないので素直に一番いいやつを使う。
ホップにはノーブル系ホップとしてザーツを使用する。本来ならばハラタウ等のジャーマンホップを使用したいところだがMalt Shopには頑なにハラタウが入荷しないので代用として使用する。
本来のヘーフェヴァイツェンスタイルに従い、IBUは低めの13とする。
■マッシング
今回はヴァイツェンの特徴であるクローブ香を引き出す事を目的として、巴波醸造としては初めてステップマッシングを採用する。具体的には前述のアシッドレスト工程をマッシングに取り入れることで、4GVの生成を促進する。
発酵開始から約一週間が経過したので瓶を発酵室(クローゼット)から居室に持ってきた。
ついでにそれっぽいラベルを養生テープとマジックペンで作って貼ってみた。怪しくいい雰囲気が出ていると思う。
スポイトで一部を抽液して試飲してみたが、両者ともに正しく発行が行われ、変な酸味や苦味、渋みは一切無い。発酵全盛期に感じられた強烈なエステル香は無いが、落ち着いたいい香りがする。しっかり炭酸を入れて冷やして飲んだらきっとバッチリだ。
今週半ばか末には瓶詰めをしてしまおう。
両者とも素晴らしい香りだ。今までのような薄いバナナ感ではなく、濃厚な香り。バナナの香りに加え、若干のスモーク感が出ている。
カラピルスの有無は飲んだ感じに現れている。カラピルスを加えたUBL-026では025と比較しややとろみを感じる。ただ、不思議なことに、発酵由来のフレーバーに関しては間違いなくカラピルス無しのUBL-025のほうが強い。