第一章 分割型おでん屋台の開発

今回の計画は私が中心に指揮をとることになり、計画の中でも最大の課題である、屋台の開発と製造巴波重工として請け負うことになった。

(なお巴波重工とはエグゾーストキャノンに代表される高速流体実験装置の開発製作を行っている重工企業である。普段はMaker Faire Tokyoに空気砲を出展してたりします。

1.1 おでん屋台の設計

おでん屋台のラフスケッチ

設計にあたっては以下の項目を満足するように検討を行った。

・ドリルなどの特殊工具を用いずとも、数人で組み立てと撤収が容易にできる

・収納を考えて、コンパクトに纏める事ができる

・5,6人がおでんを囲めるテーブル

・おでん鍋と熱燗鍋を収容できる調理台

・提灯とのれんを吊るすための屋根

材料にはホームセンターで容易に手に入る2×4材や1×4材、コンパネ等を用いることにした。

ということで早速3DCADを使ってモデルに起こしてみた。

ユニット工法の概念図

今回は屋台を分割可能にするという重要な課題があり、そのためにユニット工法を取った。

つまり屋台を屋根、テーブル、調理台、脚1,脚2と分けて、それぞれはコーススレッドを用いて強固に作り、現地で屋台として組み上げるときにはボルトとナットを用いて締結を行うというアイデアだ。

これでスパナ一本だけあれば簡単に組み立て分解ができるはずだ。

提灯のモデルを製作実装したおでん屋台Ver.2

せっかくモデルができたので提灯を実装してみた。これは楽しい。

調子に乗って背景も変えてみよう。

アメリカンな田舎でおでん屋台の親父になれるクソゲー

適当に背景を設定したら「Steamで投げ売りされてるクソゲー」っぽさが出たのでタイトルを付けてみた。きっとプレーヤーがはんぺんとかを客に投げつけることが出来るみたいな、そんなゲームだ。

それは置いておいて、実際に屋台を製造するための資料もちゃんと作った。

めちゃめちゃ適当な屋台の図面

板取図

CADモデルに基づいて必要最低限の情報を載せた図面と板取図を作った。あとはホームセンターに出向いて材料を購入し、板取図の通り裁断して組み立てを行うだけだ。

1.2 おでん屋台の製造

パネルソーによる板材のカット

脚パーツの組み立ての様子

このホームセンターには工作室があり、貸出工具を用いて自由に加工することができる。持ち込む必要があるのは設計図だけだ。また木材の切断にはパネルソーによるカットサービスを利用した。直角と寸法がビシっと出るので非常に便利だ。

後輩参戦。工業高校出身なだけ合って本当に手際が良い

途中、研究室の後輩がはるばる遠くの自宅から手伝いに駆けつけてくれた。彼の協力のお陰で作業スピードは二倍以上になり、みるみるうちに部品が組み上がっていく。

屋根のパーツを載せてみた

部品が完成する度に組み合わせてみたくなるのが設計者兼製作者の性。屋根ができたのでマウントしてみると全体像が見えてきた。

「いいねぇ~」

「あー、これはいいですねぇ~」

と静かに進捗を喜ぶ二人。

一方でまわりの客さんは「こいつらが作っているものは少なくとも普通の家具じゃない…」と戦慄したのではないかと思う。

天板を組み付けた所

屋台にとって重要な天板もばっちり完成。 さて、これで全てのユニットが完成した!

1.3 おでん屋台、完成

ついに完成

作業開始から10時間、ようやくおでん屋台が完成した。

思っていた以上に屋台だこれ!

揺らしてみてもびくともしない。とてもしっかりとした屋台が完璧に出来上がってしまった。

しかし、これをご覧になられた方々は、

「これ、完成したのはいいけど、めちゃめちゃかさばるんじゃないの…?」

と思うことでしょう…

でもご心配なく…

トランスフォーム後のおでん屋台

なんとこのおでん屋台、分解後に再構築することで12cm厚にまで折りたたむことが可能なのだ。

研究室の隅っこに違和感なく収納できる大きさに収まっており、ボルト・ナット等の小物も全て内部に格納することが可能。ばらばらのユニット状態から屋台の形状への組立に要する時間はわずか10分。

今後の運用も楽ちんである。

(ちなみにここまで小さくなるのはぶっちゃけ想定外だったので、パズルのようにこの形に組み上がっていったときは二人して感動していた)

配送についてはホームセンターの配送サービスを利用して、直接大学の研究室まで送ってもらうことにした。ホームセンター側からしても、まさか「お客さんがおでん屋台を一日でつくってそれを大学に運ぶ日」が来るなんて思っても観なかっただろう。

配送の手続き後、ホームセンターを後にして後輩と二人で酒屋を巡り、お互い好きな酒を買って帰った。

疲労感と達成感によって倹約のリミッターが外れ、5000円ほど好きな酒を買ってしまったが、その日の夜に家で飲んだそれは最高にうまかった。

「旨い酒を飲むために屋台を創り、その過程ですでに旨い酒が飲めてしまうなんてもう最高だな…」と、酔いの回った頭で謎の納得をして、幸せな眠りについたのであった。