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UD-001


ということで熟成樽と蒸留器を買った。


シェリーカスクの製作



熟成樽は1Lの超小型のもの。ここで8000円だった。
ウィスキーの熟成は蒸留酒と表面を焦がされた樽内壁の相互作用による物が大部分を占める。そのため単位体積あたりの樽との接触面積が多ければ多いほど大きな熟成効果を得ることが出来る。実際ににウイスキー業界でもクオーターカスクと言って小さめの樽で熟成を進め、短い期間で高い品質のウイスキーを製造する手法が確立されている。



買って最初のステップは樽の膨潤だ。樽内部に水を満たし、一日ほっておく。

樽は内部の水分を吸って膨張した状態で初めてシール性が発現する。買ってそのまま酒を突っ込むと隙間からダラダラ漏れてくる。なので初めに樽を水で満たし、木材を膨張させる。膨張した樽はガワに巻かれたタガで押さえつけられ、木片同士の密着圧力が高まり、シール性が増すというわけだ。
この方法なら接着剤や釘などの不純物を容器表面に露出させること無く水密容器が形成できる。改めて樽という保存容器はよく出来ていると考えさせられた。



膨潤が終わったら殺菌工程。熱湯を樽内部に満たして熱湯消毒する。



水漏れもなくバッチリ満水状態だ。



せっかく樽を買ったので、シェリーカスクを自作する。適当なオロロソシェリーを購入し、こいつをしばらく樽の中に入れる。

有名なものだとマッカランなどがシェリーカスクのウイスキーである。シェリー酒を詰めていた樽を使ってウィスキーを熟成させると、シェリー酒特有の風味がウイスキーに移り甘美な香りを持つようになる。オリジナルのシェリーカスクウィスキーではシェリー酒を輸送するのに使用されていた樽を使っていたそうだが、現在は樽不足で、わざわざ樽を買い付け、そこにシェリーを数年詰め、シェリー樽を作っているらしい。手段と目的が逆転しているが、うまいものができればいいのだ。ということでこれに習い、シェリーカスクを自作する。



せっかくだからシェリー酒単体で飲んで見る。シェリーカスクのウィスキーはよく飲むが、シェリー酒は初めてだ。香りを嗅ぐと、あのバーで嗅いだ芳醇で甘美な香りだ。最高の気分。ただ飲むと不思議な酒だなぁという感想。酸化に起因した酸味と渋味が感じられる。シェリーにおいてはこの酸化も味わいに寄与するものらしい。



シェリーをそこそこ楽しんだので、樽詰めする。700ml全量を漏斗で注ぎ込んだ。



ということで、シェリーカスクの出来上がり。少なくとも数ヶ月はこのまま置いておきたいところだ。


マッシング


ウイスキー造りもビールと同じくマッシングから始まるというのは冒頭で述べたとおりだ。いつも通り、BIABによるフルマッシングで作っていく。



麦はシンプルにペールモルト1kg。 これで5Lの標準的なウォートを作る。



鍋に4Lの水を張り、コンロで昇温する。温度は麦を投入後に狙った温度になるよう、麦の熱容量を考慮したものだ。このWebサイトで計算できる。


マッシング温度については、保温によるマッシングを行う都合上、温度の低下分も考慮して、高めの69度狙いとした。
上記Webサイトにモルト1kg、水4L、室温25度、目標マッシュ温度を69度と入力すると、初期水温は大体73.5度ぐらいとなる。
ということで73度程度まで昇温したのが上記の写真だ。



麦を1kg投入すると見事に69度になった。素晴らしい。今後もこの計算機は使っていきたい。



温水を吸ってダマになった麦を崩し終えたら保温工程に移る。ダンボールとバスタオルで組んだ保温装置に鍋を放り込む。



さらに上からタオルをかけるなどすればなお良いだろう。
保温開始から1時間後、温度を測ってみると63.3度であった。糖化酵素が活性化する温度は64~69℃であるため、この1時間で糖問題なくマッシングを継続できたと考えられる。いい感じだ。
再びガスコンロで適当に昇温し、合計90分間のマッシングを行った。



最後、76℃付近まで昇温してマッシュアウト。温度を上げることでマッシュの粘性係数を低下させ、糖分の麦芽殻からの離脱を促進する目的がある。



グレインバッグを引き上げる。BIABメソッドはお手軽である。



あらかじめ昇温しておいた70度程度の湯にグレインバッグを浸してスパージング。やってもやらなくても対して変わらないとの意見もあるが、せっかくなのでやっておく。



煮込み工程。盛大に吹きこぼした後の写真。ちょっと時間がなくて60分で煮沸を切り上げた。



煮沸完了ちょっと前にウォートチラーを煮込む。このウォートチラー、前回UBL-015でも使っていたのだが、その時と比較しかなりの改良が加えられている。
まず、パイプベンダーをちゃんと買って、InletとOutletの引き回し部をしっかり90度に曲げた。これでかなり見た目と取り回しが良くなった。



そして最大の差異は配管のInlet Outletに取り付けた継ぎ手である。お気に入りのPisco社製で、ワンタッチでチューブを着脱できる。



煮沸が終了した鍋を風呂場に持ち込み、チラーに水を流し急冷する。取り付けられた2本の透明チューブと継ぎ手がクールだ。



冷却が完了したので発酵容器に移し、エアレーションの後、余っていたモルト缶付属のドライエールイーストをふりかける。
これで仕込みは完了だ。

だが、ここでミス。鍋の全量を発酵容器に移してしまったのである。煮沸完了後、鍋のそこには不純物であるトラブがたまる。こいつがいると、不快な香りがつくため、極力取り除かねばならない。
だが、この時点で酵母も投入済み。今更濾過をしても、新たな雑菌汚染リスクが高く実行に移すのは適作ではない。
諦めてこのまま発酵させることにする。
発酵容器からはすごい「ザ・麦、ザ・穀物」と言った香りがする。これ大丈夫かなぁ。

発酵が進んできた段階で匂いを確認してみると、凄まじい硫黄臭である。これダメなんじゃないか???
ウォートの発酵中、硫黄化合物が生成し、それは炭酸ガスとともに外部へ逃げていくと言うのはよく聞く話だが、過去ここまで硫黄臭の強い例は経験したことがない。不安過ぎる
((((;゚Д゚))))



蒸留


ついに時が来た。 といって突然登場するのがたわしである。しかしたわしと言っても銅製たわしである。
通常、ウイスキーの蒸留には銅製のポットスチルを用いる。ポットスチルが銅でできている理由はいくつかある。高い加工性と熱伝導率という特徴はその理由として容易に想像できる物であるが、加えて硫黄化合物の除去という役割がある。発酵を終えたもろみ(ウイスキー造りではウォッシュと形容する)には硫黄化合物が含まれており、完成品に硫黄香をもたらすため、極力これを除去する必要がある。ここで銅は硫黄化合物を吸着する性質があり、銅と硫黄化合物を含む蒸気が触れ合うことで、硫黄化合物が除去され、クリーンなフレーバーになる。ポットスチルがひょうたん形のようになっていたり、引き出し部がやたら長かったりするのは、蒸気が銅と触れ合う面積を極力増やしたいとの発想に基づいたものである。スチル形状とフレーバーの関係についてはここに詳しく纏められていた。

要するに、ウイスキーに含まれる硫黄成分を除去したかったら、蒸気を銅と反応させまくればよいということだ。
なのでこのような物を作った。



死ぬほどバカっぽいシロモノである。蒸留器の蓋の裏面に銅製たわしを銅線でくくりつけたものだ。これで銅と蒸気が触れ合う面積は素晴らしく稼げるはずである。



設備の準備と発酵が完了した。サイホンでウォッシュを蒸留鍋に移送する。



恐る恐るウォッシュを味見してみる。匂いがややキツイが、味は割りと悪くない… ホップも何も入れていないため、とても麦を感じ、そしてとても甘い。



蒸留は60度程度からスタートする。ということであらかじめキッチンでウォッシュを予熱しておく。



予熱が終わった鍋を風呂場に移し、ついに蒸留である。ガスコンロは極力弱火とし、じっくり温度を上げていく。



90℃を越えて、93.3℃になった時点でついに蒸留液が出てきた。本来ならば、70℃手前で沸点の低いメタノール、80℃からはエタノールが出てくるはずなのだがやったら遅い。


今回は温度履歴も取っていた。と言っても時間ごとに蒸留鍋付属の温度計の値をLibreOfficeに打ち込むわけだが。

温度の絶対値は当初の見積もりとは異なるが、45分程から蒸気温度は93.3℃で定常状態になり、投入したエネルギーがエタノールの沸騰に使われている事がわかる。

蒸留液が出てくる温度がやたら高いことについて、付属の温度計がポンコツで、指し示している温度が異なる可能性を考えた。
そこで温度計の校正実験として、純粋な水をガンガン沸騰させてみたのだが、温度計の示す温度は98.9℃であながち間違っているわけでも無さそう。

後はアレか、共沸とかそういう難しそうな理由。考察は後に回す。


ともかく、定常状態時には安定して蒸留液が出ており、数100mlの液体を集めることが出来たのだが………



これが絶望的にヤバイ香りがするのである。

「It's the End. 終幕の時だ。」 っていうレベルじゃない。恐ろしく不快なカラメル臭が液体から立ち上る。
ウイスキーの蒸留において、最初に出てくる液と最後に出てくる液は香味が悪いため使用しないとの話があるが、このバッチに関しては終始地獄のようなカラメル臭が立ち上る。何だこれは。もはやトラウマレベル。間違ったら今後ウイスキーが飲めなくなる。

あまりの絶望に蒸留作業を中断した。火を止め。しばらく置いた後で蒸留鍋の蓋を開ける。ヤバイ臭気がどっと部屋に充満し、つらい。
鍋の中身を観ると、液体の色はペールエールのような茶褐色に変化していた。


考察

今回、ありえんヤバイカラメル香が生成したわけだが、煮沸後の液体が茶褐色に変色していたこと、蒸留以前のウォッシュがかなり甘かったことから、メイラード反応かカラメル化が進行し、ウォッシュ中の糖分が変性し、悪臭が発生したものと考察できる。

その後、ウイスキーの製法について改めて情報を集めた所で衝撃の事実が幾つか明らかになった。

1.マッシング温度
ウィスキーにおけるマッシング温度は64℃程度の低温域で行うのが通常。結論から言えば、この低温マッシングを行うことでハイアルコールでドライなウォッシュを得ることが出来る。これはウォッシュの残糖度が低いことと同義だ。

マッシングはデンプンを糖に変える工程のことだが、ここでモルトに含まれる糖化酵素には二種類がある。
α-アミラーゼとβ-アミラーゼである。
β-アミラーゼは54~65℃の範囲で活性を持ちデンプンを二糖類であるマルトース(麦芽糖)まで分解する。一方α-アミラーゼは67~75℃で活性を持ち、デンプンを適当にぶつ切りにして多糖類であるデキストリンを生成する。
発酵の過程では酵母が糖類を食べてアルコールに変えるが、酵母(サッカロミセスセレビシエ)が食べられるのはマルトースやグルコースなどの小さめの糖に限られ、デキストリンなどの多糖類は分解できない。

その為、マッシング温度を高めにすれば、その分酵母が分解できないデキストリンが生成するため、発酵後のウォッシュの残糖度は増大するわけなのである。

今回のマッシングでは69度始まりの63度終わり。69度でスタートしたということから、序盤に大量のデキストリンが生成し、結果、ウォッシュは甘々になったと考えられる。

結果として、この残糖が蒸留工程時にカラメル化を起こし、不快なカラメル臭の元になった可能性がある。


2.煮沸工程
これに関してはシンプルである。ウイスキーに煮沸工程は存在し無い。

ビール畑の人は以下の効果を期待して煮沸を行う。
殺菌、ホップによる苦味と香り付け、カラメル化によるカラメル風味の付与、メイラード反応によるカラメル色の付与
逆に、煮沸を通して得られたウォッシュを更に蒸留してしまうと、煮沸工程で得られたカラメル風味が更に凝縮し、不快過ぎるほどに強化される可能性がある。




改善案

今回の大失敗を経て、下記の対策を考案した。

1.マッシング温度の低下
極力全てのデンプンを酵母が消化可能な小さな糖へ変えるべく、β-アミラーゼが活性化する65℃以下でマッシングを行う。マッシング温度が低いとその分マッシングにかかる時間は長くなるが、逆に言えば長い時間をかければいいだけの話だ。低温でじっくりマッシングを行い、残糖度を極力下げ、カラメル化の発生を防止する。

2.煮沸をしない
煮沸をしません。これによって煮沸時のカラメル化を防止する。殺菌について不安が残るが、そもそもマッシュアウト時に75度まで昇温してるため、充分に低温殺菌がなされていると考えられる。マッシュを手際よく発酵容器に移せば特に問題無さそうだ。

以上を踏まえ、次回レシピと工程を下記に纏める。

レシピ
ペールモルト1kg
ドライエールイースト適量
水5L

工程
・低温マッシングのために63度程度までマッシュを昇温し保温する。
・温度が55度を切ったら再び昇温し、2時間程度この温度域を維持する。
・75度まで昇温し、マッシュアウト。
・グレインバッグを引き上げる。この際、極力雑菌汚染を防ぐため、素手で絞ったりはしない。
・殺菌した発酵容器に移し、フタをする。
・放置して液温を室温まで下げる。
・エアレーションの後、酵母をふりかける。
・発酵後得られたウォッシュに対してコールドクラッシングのため、冷蔵庫に入れて不純物を沈殿させる。
・得られた澄んだウォッシュを蒸留する。


ということで、初回実験は悲惨な結果に終わったが、多くの知見を得ることができた。ウィスキーを作るという工程自体は極めてシンプルなので、トライアンドエラーを繰り返せば正しい方向へすぐ向かう事ができると思う。
頑張っていこう。