第零章 プロローグ

0.1 おでんと熱燗

仙台のおでんの名店、「おでん三吉

すべては私が仙台のおでんの名店、「おでん三吉」を訪れたことに端を発する。そもそもおでんの専門店に行くのも今回が初めてだったが、その雰囲気に完全に心奪われてしまったのだ。

年季の入った木製のカウンターと、目の前には矩形の鍋に浮かぶ美味しそうなおでん達。

熱燗は秋田の高清水。徳利もおでん仕様

専門店で食べるおでんは本当に美味しかった。そしてそれ以上におでん屋で呑む酒の素晴らしさに心を打たれたのである。

東北の寒空の中、駆け込んだおでん屋さん。目の前の鍋には美味しそうなおでんが浮かび、その隣では日本酒がちろりで暖められている。大将に注文を告げて、年季の入った木製カウンターに置かれる温かいおでんと熱燗。 こんな素晴らしい世界が存在していたのか…

私のおでん屋デビューは大成功に終わり、この喜びを一人でも多くの酒飲み野郎と共有したいという気持ちを抱いたのであった。

0.2 青葉山おでん計画 発動

国際学会でポルトガルに行ったラボメンが買ってきてくれたポートワインを研究室で呑む

後日、さっそく研究室の酒呑み達に、この素晴らしきおでん体験記を語った。おみやげのポートワインを飲みながら、話はどんどん盛り上がる。

「研究棟の目の前におでん屋台ほしいっすよね」

「わかる、めっちゃ欲しい」

「赤ちょうちんを光らせよう。そして椅子はもちろんビールケースだ」

「天才かよ。ビールケースにはボロ座布団を敷こう」

「酒はもちろん東北の日本酒を熱燗で。ビールは瓶ビールに限る」

「もう完璧じゃないっすかそれ…」

各々の抱く理想のおでん屋台像が怒涛の勢いで集結し、みるみるうちに夢のおでん屋台が形になっていく。こうして酒呑み達の決意は固まった。

「おでん屋台を自分たちで作ってしまおう」

「決行日は一ヶ月後の修士論文中間審査会の当日」

「最高の打ち上げを自作のおでん屋台という最高の空間で成し遂げよう」

こうして青葉山おでん計画がスタートしたのだ。