復活の時だ。

私が高校生の頃、明確に抱いた将来の夢があった。それは「自分のLabを構える」ということだ。

旋盤やフライス盤などの工作機械を操って、未だこの世に無い装置を創造する。好きな音楽を流しながら、同士と語り合い、新たな想像の原動力とする。

そんな空間を持つ輝かしい人生にしたいと、若いながら決意し、巴波重工の前身であるUZM Labは生まれた。


大学院を卒業し、創作で世界に貢献すると意気込んで入社した重工企業は完全なる地獄だった。自分の特性と真逆の業務と長時間労働による趣味の剥奪の末、鬱病を発症。一切のモチベーションが喪失し、私のアイデンティティは完全に消えた。

休職期間中、私を救ってくれたのはHome Brewingという新たな趣味とその過程でできた新しい仲間だった。


そして2020年4月、ついに決別を果たした。

会社も住処も新たにし、陰鬱たる闇のトンネルを抜けた今こそ、かつての将来の夢、新たなる機械と人生を生み出すための「Lab」が必要だ。

この記事は、夢の実現の記録であり、地獄からの決別の象徴である。

■計画開始


■壁構築

ということでついに工事が始まった。

ツタ氏と壁

現状のラボの壁は入居当時から変わらぬタイルばりである。この全面に対してコンパネを敷き詰めることで、ビスが効く(木ネジが打てる)よう改装していくのである。ビスが効けば棚や工具を吊り下げる金具も簡単に取り付けられて便利だし、さらには全体が木の暖かさに包まれ、そこは優しい子供が育つ優しいラボになる。

手続きとしては以下の通り。

  1. 長材に金具をビス止めする
  2. 金具の穴位置を基準に、コンクリートハンマドリルで壁に穿孔する。
  3. コンクリートビスで壁と金具を固定する。
  4. 固定された長材にコンパネをビスで貼り付けていく。

コンパネとタイルの間には長材が配され、両者の隙間に電気配線を通すことも可能だ。本格的な建築になれば、ここに断熱材を入れたりするのだろう。

東の壁を片付けると、タイルに直で描かれた壁画が姿を表した。

作業の準備をしていると、タイルに醤油の魚や怪しい目などが描かれている事に気付く。ツタ氏に話を聞くと、2012年に友人に書いてもらったものとのこと。なんだそのエピソードは、エモではないか。。

着々と貼られていく「壁」

イケてるチルい音楽を聴きながら、壁は着々と貼られていく。二人の人員のうち、片方はコンクリートドリルでタイルに穿孔(ところで穿孔って熟語は非常にカッコいい)し、もう片方は集塵機で穿孔部位から噴出する粉塵を回収する。

自分は今回人生で初めてコンクリートドリルを使ったが、やはりこう、今までできなかった加工ができるようになる体験というのは、良い。RPGで新しいアイテムを手に入れた感じと全く同じ全能感。この空間ではコンクリートドリルさえあればボスを倒せるのだ。皆、コンクリートハンマドリルを買い、そして壁に穴を穿孔しよう。(そしてまもなくしてビットは折れた

コンパネを貼る作業工程自体は単純だが、いかんせん壁というのは広い。

一枚単体ではあれだけ重くてデカいコンパネも、壁に敷き詰めるとなるととたんに小さく見えてくるのが不思議だ。

そして作業着手から一週間後…

東西の壁が完成

なんとか東西の壁が完成した(冷戦中か)。

依然南北は未施工のままだが、やはり二面を制圧すると達成感が違う。

ということで今日を「壁記念日」と定め、お祝いをすることにした。

~壁記念日のようす~

翌日は二日酔いのため作業中断となった。

■床構築

壁ができたらやはり次は床である。

しかし、この床がラボ構築における最大の難関であるとは、着手当初は全く想像していなかった。

ラボの現状はガビガビの土間であり、マクロな勾配もあればミクロな凹凸もある。これを克服して全域に渡る水平を作り出し、あらゆる工作の礎を作るのが床構築の目的である。

床構築の王道は根太と床材の組み合わせ。長尺の根太を土間の上に水平に設置し、その上に床材を敷き詰めれば、水平な床の完成である。

しかしこの「水平」、やってみてわかったが、作るの、マジで難しい。

とりあえずコーナンProにきた。

とりあえず根太と床材をたくさん買っておいた。

職人の店で買い物をしたので完全に職人になった

のりこめ~

こんにちは~

とりあえず、材料はそろった。

さて、いざ購入した木材と水平器を手に工事を始めようとしても、東西南北6✕4mに渡る水平を担保する方法がマジで思い浮かばないという状況に陥った。

物を作る人間にとって「定盤」は非常に大事なツールだ。盤上で計測をしたり、直角を出した溶接をしたり、正確なものづくりは定盤という基準の上に構築されていく。

一方、「心頭滅却すればフローリングもまた定盤」という言葉もあるように、そこまで精度が必要ない工作なら建物の床を基準として使用するのも悪くない。

しかし、これはその建物の床が「水平」を有しているからだ。手元に拠り所となる水平がないと、本当にものが作れないのだ!そしてそれは床を作りたい場合についても同様である。

東西に勾配はあるし、南北にも勾配がある。局所での陥没もある。さらに言えば根太に使う木材そのものにも固有の反りがあり、床と木材、どこにどれだけ水平器を当てたとしてもその局所の水平しかわからず、広範囲に渡る水平を確認する術が無いことに気づいたのだ…


これは困った。こんな時、全長が4m位ある真っ直ぐな定規でもあれば……



ということで買いに来た。

定規ゲット

水平を追い求める我々は再び職人の店を訪れていた。

大型のCチャン(リップ溝形鋼)を反りのない水平な定規として、それを基準に根太を配し水平を構築する作戦である。シンプルかつ確実なやり方である。

でかい定規を買った帰路

職人の店を後にし、いかしたシティポップを流しながら、夕日が沈むシーサイドを2シーターのオープンカー(主に荷台が)で駆け抜けた。

ということで、丸一日かけてようやく2m分の根太を配置し終えた。早速床材を敷き詰めてみる。水平確認のためにビー玉を落としてみると、ビー玉は1,2度バウンドした後、ピタリとその場に停止した!我々は水平を手に入れたのだ。

ということで今日を水平記念日と定め、お祝いをすることにした。偶然その場に落ちていた木の板と棒とコーススレッドを適当に組み合わせて即席のちゃぶ台を作り、天井からペンダントライトを垂らせば日本的食卓の完成である。いざ、床に座ってみると、素晴らしい安定感。これはまさに我々が0から生み出した水平によるものにほかならない。(加えて大変な疲労感と達成感も影響している)水平とはこのように"有り難"く、その上で生活を送れるというのは極めて贅沢なことなのだ。



床構築のメソッドが構築できたので、あとはルーチンでガンガン作業を進めていく。工房全体の色彩バランスを鑑み、床材にはダーク調の水性ステインを塗布して落ち着いた色合いをもたせることにした。缶ビールを飲みつつ、壁に立て掛けた木材に刷毛でオイルをバンバン塗っていく。気分はライブペインティングイベントだ。(途中、テンションが上りすぎてステインを床にベッタベタに垂らしてしまったのは反省である)


床材の塗装は反りを考慮し全面に対して行い、乾燥させたあと根太の上に敷き詰め、ケガキをしたあとにコーススレッドで根太と締結する。工程は単純だが、数が多いため非常に大変な作業である。


そして床構築の着手から二週間後… ついにその時が来た。そう、今日は「床記念日」だ。