Outline

除去加工と付加加工(AM)の対比

上図が示すとおり、旧来の工作機械がドリルやエンドミル、バイトなどの切削工具で素材を除去して目的形状を得る除去加工であるのに対し、3Dプリンタでは線状だったりパウダー上だったりする素材を結合させて目的の立体構造物を得る付加加工である。そのため近年では様々な方式の3Dプリンティングを総括してAM(Additive Manufacturing)とも呼称されている。

■3Dプリンティングの代表的な方式

■熱溶解積層方式(FDM : Fused Deposition Modeling)

家庭用として現在最も普及している方式である。素材となる樹脂フィラメントがプリントヘッドへ送り込まれ、ヘッド内部のヒーターで昇温、溶けたフィラメントはノズルから押し出され、あとはケーキにホイップクリームを乗せていく要領で任意の形状を積層によって出力する。

■利点

造形サイズが大きく取れ、またプリントスピードも非常に高速に設定できるのが特徴である。フィラメント素材のラインナップも非常に豊富で、最も一般的なPLA(ポリ乳酸)や、ABS、PETGなどが選べる。機能性フィラメントも豊富で、炭素粉を混入した高強度フィラメントや金属粉を80%混入したものもある。

また出力後の後処理が不要で、プリント完了後は造形物をプリントベッドから剥がすだけでOK。面倒な後処理がないので造形スピードと相まって高速で試作サイクルを回せる。

■欠点

ラフで高速な造形を得意とする反面、mm以下のオーダーでの精密形は不可能。

■光造形方式(DLP : Digital Light Processing)

家庭用としてFDMに次いで普及している方式である。底部が液晶ディスプレイとなっているバットに紫外線硬化樹脂を注ぎ、底部近傍までビルドプラットフォームをおろし、この状態でバット底部に設置した液晶ディスプレイから任意形状の紫外線を照射させる。すると照射した形状で樹脂が硬化し、プラットフォームに定着。あとはプラットフォームを引き上げつつ一層一層樹脂を硬化させ、任意の形状を積層によって出力する事ができる。

■利点

液晶ディスプレイの解像度と同等の極めて高い解像度での造形が可能になるため、非常に微細でなめらかな高精度プリントが出来る。また層同士は完全に密着するため、強度的な異方性がなく、簡単に層間の気密も確保できる。精密な機械部品を作ったり、フィギュアの造形にはもってこいの造形方法と言える。

■欠点

最大の難点はその造形の煩雑さである。バットから引き上げた造形物はそのままでは使用できず、余剰のリキッドを除去するためにアルコール洗浄を行ったり、二次硬化処理として適切に紫外線を照射する必要があり、またそもそもの造形にも多くの時間がかかるため、試作サイクルを回すにはかなりの手間と時間がかかる。これは正直筆者にとって極めて苦痛であった。

また強度上もFDMと比較して大きく劣り、現状の樹脂ラインナップでは力をかけるとパキッと一気に脆性破壊してしまうレベルとのこと。単体で耐圧部品のような使用用途には不向きと考えられる。(一方で強度のある部材と共用することで、簡単に高精度な流体部品が作れる可能性もあり、そのへんは探求の余地がある。)

■レーザー溶融方式(SLM : Selective Lase Melting)

結論、金属3Dプリンターである。原理としては上述の光造形と近く、薄く金属粉末を敷き詰めたベッドに高出力レーザーを照射し、部分溶解させ、レーザービームを走査することで任意断面を溶融・凝固させる。その層の上に再び金属粉末を敷き詰めてレーザー走査を繰り返すことで、任意形状の金属部品を出力する事ができる。

■利点

なんと行っても最強の3Dプリンターであり、従来の製造技術の常識を根底から覆すポテンシャルを持っている。使用できる金属は多種に渡り、アルミやステンレスはもちろん、通常の加工が難しいチタンやインコネルなどの難加工材についても容易に複雑形状を出力可能。強度と耐熱性は抜群であるから航空宇宙用の流体部品などとの相性は抜群である。実際に金属3Dプリンターの技術を先導するのはGEなどの航空宇宙企業であり、ロケットエンジン部品やガスタービンエンジンのブレードなどに3Dプリント品が適用されつつある。

■欠点

夢の装置のような金属3Dプリンタだが、残念がら未だ民生品は存在せず、超高価格な企業用工作機械の段階である。しかし今後、爆発的に普及することが約束された装置であるから、そう遠くない未来に手に届く価格で販売されてもおかしくないだろう。

■3Dプリントの流れ

アイデアスケッチから完成までのフローチャートは図のとおりである。3D-CADでモデルを作った後、スライサーと呼ばれるソフトウェアを用いて、3Dモデルを元にプリンタを駆動するためのプログラムを作成する。NC工作機械で言うCAMである。こうして出力したプログラムを元に、3Dプリントを行い、最終的に機械加工を施して完成品が得られる。

ポイントとなるのは途中に出力結果を踏まえたフィードバックが必要ということだ。3Dプリンタの技術がいくら進歩したとは言え、モデル通りの形状が一発で得られることはまず無いと考えて良い。これは従来のNC旋盤やフライス、あるいはマシニングセンタについても同様である。依然として機械加工職人がその職を失っていないのと同じく、どんな機械にも特性があり、それを理解した上で目的の形状を得るための設定を施す必要がある。

そのため、3Dプリントについても出力品の寸法や強度、あるいは機能を確認し、不備があればスライサー設定、あるいはモデリングに立ち返って、適切な出力結果が得られるよう微修正を施していく。

例えば一つの部品にネジや嵌合などの寸法が厳しい要素を複数含む複雑なモデルの場合、要素を分割して試験出力して寸法の出方を確認し、それを完成品の3Dモデルに反映することで時間短縮を図る事ができる。

■3Dプリント実践

概要はこれくらいにして、実際のプリントの流れについて実例により紹介する。

■3Dプリンタによるパイプ曲げ治具の製作

対象とするのはチラー製作用のコイル曲げ治具である。チラーはなまし銅管を巻いて作るのだが、手曲げできれいに曲げるのはほぼ非常に難しく、特に90度曲げを精度良く行うのは至難の業である。そのため人の手に頼るのではなく、治具を作ることによって高精度な加工を実現する。そんな治具の製造において、3Dプリンタほど適した装置はない。

1.治具の設計

まずはアイデアスケッチから始まる。最終的なコイル形状を得るために必要な構造を、作業性を考えつつ考える。詳細が詰められなかったら、とりあえずエイヤで3Dプリントしてしまうのもまた手ではある。

2.モデリング

作業場所はノートからPC上に移り、3D-CADによるモデリングを行う。CADソフトウェアには色々あるが、現在、Autodesk社の開発したFusion360が最もメジャーなCADソフトウェアとして全世界で使用されている。それもそのはず、なんと個人利用およびスタートアップ企業であれば無償で利用できるのである。モデリング機能以外にも、レンダリング機能、応力解析機能、またそれに基づく形状最適化機能などの様々な機能を有している。そう聞くと難しそうなソフトだと思われる方も多いだろうが、心配は不要。極めてユーザーが多いため、ネット上には数多の解説記事や動画が日々アップロードされており、ググれば大体のトラブルは解決可能な状態となっている。これぞまさに時代の変化である。

ということでモデルを起こしたのが上図である。使用方法は後述するため、ここでは省略する。

部品の一部には、上図のようにサポート材をモデリングすることもある。これはFDM方式のプリンターの性質上、浮いた箇所に樹脂を積層することが出来ないためだ。基本的には後述するスライサーが自動でサポート材のレイアウトをしてくれるが、狙った通り行かない場合が多々あるため、自分でモデリングしてしまうのが楽な場合がある。

3.スライサーによるスライス

モデルが出来たらstlファイルというポリゴン形式でデータを出力し、スライサーに読み込ませる。ここで使用するスライサーも基本的には無償で利用できる。3Dプリントの品質はこのスライサー設定が全てであり、設定次第で早く、美しく刷ることもできれば、あるいはそもそも全く造形が出来ない場合もある。例えば今回の治具の場合、円筒内部が中実である必要はまったくないため、Infill Densityという値を調整することで、樹脂の出力密度を調整でき、密度を20%程度まで落とすことで必要な強度は残しつつ、出力時間と素材使用量の削減ができる。他にも積層厚さやノズルの温度やヘッドの移動速度、外周部の厚みなど、事細かにパラメータが用意されており、これらを以下に調整するかが3Dプリンティングの肝である。

4.プリント

ついにプリントのときである。USBメモリやSDカードにスライサーで作った出力プログラムを焼き、プリンターに入力して出力する。基本的にプリンタ側で出力設定をいじる余地はなく、スライサーの設定で全てが決まる。上図のモデルの場合、プリントは約1時間程度で完了した。徐々に頭に描いた形がそのまま眼前に立体として出力される様子は見ていて飽きないものである。

5. 完成

1時間のプリントの末完成した治具の表面は非常になめらかで、強度も十分である。この形状を切削で作ろうとなると途方も無い工数がかかることは想像に難くない。まさに3Dプリントが為せる技である。

しかし当然、この形状に至るまでは複数のトライアンドエラーがあった。例えば穴径が小さすぎて銅管が入らないとか、曲率がきつすぎて管がきれいに曲がらないなどの不具合があり、都度モデル、スライサー設定を調整してようやくこの形にたどり着いている。

こうして完成したパイプ曲げ治具、せっかくなのでその使用方法を簡単にご紹介したい。

まずはなまし銅管を1m程度に切断し、治具内部に挿入する。治具の内径は厳密に調整してあるため、スムーズに入るがしかしガタは一切ない。

反対側に向け、ガイドに沿って丁寧にパイプを曲げていく!この見事な曲率変化は治具なしではなし得ないものである!

巻き終わったらコイルを治具から引き抜く。

こうして3Dプリントした治具によってチラーが完成した!この高精度な3次元形状を個人で作る例はそうそうない。まさに3Dプリントの登場がもたらしたものづくり革命の一端である。

以上が、3Dプリンティングの概要から実際の流れである。

プリンタ技術の進歩とそれを取り巻く環境の変化により、多くの人々の想像を遥かに上回って3Dプリントは簡単かつ強力な製造手段になっている。この波に乗らない手は無い。3Dプリンタが気になっている人は今すぐとりあえずポチるのが絶対的に正である!