Cème de Banana Pound Cake

スピリッツにバターの風味を加えるファットウォッシングの技法を活用し、悪魔的に完熟バナナが香る「飲むバナナパウンドケーキ」を自作する

■材料

  • 熟したバナナ:2本
  • シナモンスティック:0.5cmほど
  • バニラエクストラクト:適量
  • 無塩バター:30g
  • 粗糖:50g
  • BACARDI Superior White等のホワイトラム:500ml
  • Pampero Aniversario等のダークラム:30ml

■工程

  1. ホワイトラムに輪切りにしたバナナを一週間程度つける
  2. 最終日にシナモンスティックを加える
  3. 濾過したリキッドに加熱して水分を飛ばしたバターを加える
  4. 冷凍庫で一晩冷却して油脂を固化させる
  5. リキッドと固化した油脂を分離しもう一度濾過する
  6. 粗糖に少量の水を加え加熱しシロップを作り添加
  7. バニラエクストラクトを適量滴下
  8. ダークラムを加えよく混ぜ合わせ、最後に濾過をしたら完成

■背景

2019年の末、大分県大分市の老舗Bar「水田屋」にて、ちょうど座った席の近くに興味深いボトルが並んでいた。

「TEMPUS FUGIT SPIRITS CREME DE BANANE LIQUEUR」

なんともレトロなラベルのそのボトルが気になり、オーダー。

何だこのアロマの濃密さは!!完熟したバナナの濃厚さ。それはもはやバナナの域を超え洋菓子のような仕上がりになっている。飲むとまた豊かな甘さ。アロマと相まって素晴らしく満足度の高い液体だ。おいしい。

ということでこの濃密なバナナリキュールを自作するべく色々やってみることにした。

■設計思想とか

ケーキのような濃厚完熟バナナの液体というイメージから、単純なバナナリキュールではなく、バナナパウンドケーキのようなリキュールを作ることにした。名前は「Crrème de Banana Pound Cake」とし、ケーキらしさを得るべく色々工夫をする。

メイン材料であるバナナは限界まで放置して完熟させる。その上でホワイトラムに浸漬する。ウォッカよりはラムのほうが相性が良いだろう。甘み付けのための砂糖には粗糖を使用し、熟成されたリキュールに特徴的なコクのある甘さを付与する。

ではどのようにパウンドケーキらしさを付与するかについてだが、まずケーキらしさを出すためシナモンとバニラを添加するのはマスト。その上今回はファットウォッシングの技法を適用する。

ファットウォッシングとは油脂の香りだけを酒に移す手法であり、バーテンディングの技法として近年確立したものである。原理としては非常に単純で、任意の油を加熱して溶かしそれを酒に加える。適度に混ぜたあとは冷凍庫で放置する。これによって油脂成分は上層で固化し、これを分離濾過することで、ベタつく油分を除去し、油脂の持つ芳香成分だけを酒に移すことができるのである。


(ちなみにこの技法を有名にしたのはベーコンウィスキーというレシピであり、作り方は単純明快。ベーコンの油をウィスキーに移し、冷凍。固化した油を濾過したものがベーコンの香りが立つベーコンウィスキーだ。)


このファットウォッシングの技法をバターに対して適用することで、今回のバナナリキュールに対しバターの芳醇な香りだけを付与できる。そうして出来上がったリキッドは間違いなく焼きたてジューシーなバナナパウンドケーキになるに間違いない。そんなパウンドケーキには少量のダークラムも加わって大人の風味になっているはずだ。ということで仕上げには少しばかりいいダークラムも混ぜておこう。

そうして出来上がったのが冒頭のレシピである。では早速作っていこう。

■バナナの漬け込み

スタートはもちろんバナナである。写真のように完熟するまで柔らかいところで保管しておく。本来ならばバナナハンガーとかを使うべきなのだろう。皮を向いたら抽出がされやすいよう、細かく輪切りにして保存容器に移しておく。

保存容器にバカルディラムを加えていく。量は適当に500ml。あとは蓋をして冷暗所で一週間程度浸漬する。浸漬後、上層は露骨に酸化が進み黒ずみが発生していた。もしかすると空気層を二酸化炭素等で置換して保存すると風味にも影響が現れるかもしれない。

次はこれを濾過していくが、これがなかなか難しい。スプーン等で果肉を除去したあと、細かい固形物を濾過していくのだが、コーヒーフィルターのような緻密なフィルターだと、すぐにスタックしてしまう。最終的にベストと判明したのは次の方法だ。

  1. スプーン等で大きな果肉を除去
  2. 細かい果肉を含むリキッドをティーポットの金網でラフに濾過
  3. お茶パックに使う不織布で濾過

この3工程を踏むことで、スタックすること無く濾過を完遂することができた。

濾過が完了したリキッドに、ケーキらしさを付与するスパイスとしてシナモンとバニラエクストラクトを添加する。シナモンスティックについては写真だと1cmほどが入っているが、かなり強く出たので次回は0.5cm程度でいいと感じた。また投入するタイミングもバナナ本体の漬け込み最終日に入れたほうが効率的だ。翌日、バニラエクストラクトを添加する。液色が茶色になっているのはおそらく濾過時に取り込まれた酸素に起因する酸化だろう。バニラエクストラクトの投入量は香りの雰囲気で決めたが、これもベストなタイミングは一番最後ではないかと思う。再考の余地ありだ。

■ファットウォッシング

それでは今回の目玉であるファットウォッシングの技法に移っていく。用意したのは無塩バターである。適量を量りで計量する。量が多いように見えるが、必要なのは香りであり、油脂は破棄するため高カロリーにはつながらないので安心してほしい。

フライパンにバターを載せ、弱火でじっくり溶かしていく。ポイントは沸騰生じそれが収まるまでじっくり加熱を継続することだ。

https://www.theflavorbender.com/fat-washed-butter-rum-fat-washing-technique/

バターにファットウォッシングを適用するにあたって参考にしたのが上の記事である。本記事によれば、溶けたバターをすぐそのまま酒に投入してしまうと、強いバター風味が得られる代わりに酒が強く濁ってしまうらしい。その際、水分をしっかり沸騰させて飛ばしてから酒に加えることでこの濁りを回避できるとのこと。またバター風味はやや落ち着くらしい。今回はクリアなルックスが欲しく、かつバナナが主役なので、後者の方法を採用した。

沸騰が終了したタイミングでフライパン底を見ると、タンパク質等の乳固形分が熱を受けて茶色く変色しているのがわかる。今回は薄いブラウン程度で切り上げたが、焦がしバターになるまで加熱するとまた香ばしさが付与されて有りかもしれない。

溶かしたバターをバナナリキッドに加えて軽く混ぜておく。これでしっかりバター風味がバナナリキッドに移ったはずである。あとは粗熱を取って冷凍庫に突っ込んで一晩冷却する。

翌日、しっかり油脂は分離し、上層部で固化していた。

あとは適当に油脂を取り出す。これでファットウォッシングは完了である。

■甘み付け

今回作るのはリキュールであり、甘さは非常に重要な要素である。人間の味覚は嗅覚と味覚が一致した時にはじめて美味しさを感じるともので、バナナやシナモン、バニラのような甘い香りには、それと釣り合うだけの甘さが必要だ。今回はコクのある甘さを与えるべく、粗糖ベースの和三蜜糖というものを選んでみた。香りは非常に豊かでクセのない黒糖といった感じ。熟成されたリキュールにあるような深い甘みを与えてくれるだろう。

砂糖については水を少量加えた後、フライパンで加熱して予めシロップにする。加熱する際はわずかに色が濃くなる程度まで継続し、ケーキをオーブンで焼いたときのような香ばしさを与える。加熱が終わったらリキッドに加える。

最後に、仕上げとしてちょっといいダークラムを隠し味として加えておこう。今回使用したのはPamperoのAniversario。2500円程度と手頃な価格だが、非常にスムースで樽感もしっかりある。高級な大人のバナナパウンドケーキにはこれが入っていてほしいという願いを込めて、ワンショット30mlを投入した。

最後にもう一度濾過をして、瓶詰めしたら完成である。

■完成

あぁ、見よこの美しきアンバーを。

完熟バナナ、ラム、バター、シナモン、バニラの香りが調和した、「まさしく飲むバナナパウンドケーキ」が完成した。

今回完成した量は450mlほど。非常に手間と時間がかかった高級なリキュールである。

■テイスティング

非常に濃密な香り。完熟したバナナとシナモンが前に出るがその背後に間違いなくバターとバニラがいて、渾然一体となっている。芳醇なバターがジュッと染み込んだバナナパウンドケーキのアロマを見事に形作っている。

飲むと程よいとろみが合って、アロマのイメージ通りのナチュラルな甘さが広がる。しかし決してくどくはなく、単体でどんどん飲める甘さに抑えられている。度数は30度以上はあるはずだが、それを全く感じさせない恐ろしさがある。

設計として、それ単体での完成度を目指したため、カクテルベースに使うにはやや甘さが足りないが、しかし例えばバニラアイスに加えてみると素晴らしい化け方をするに違いない。

また、別のリキュール自作愛好家の方に頂いたテイスティングコメントは次の通り。

「まず頭に浮かんだのがキルフェボンのバナナタルトでした。完熟したバナナの甘い香りはもはや悪魔的で、香りだけでも満足です。とろみある口当たりとラムのニュアンスが上品な大人のデザートを思わせます。 」

悪魔的とは本当に有り難い言葉である。いいものが作れてよかった。

■最後に

空想レシピで作ってみたが、結果として大変いいものができた。その過程で気づいたのが、お菓子のレシピ本をベースにリキュールレシピに落とし込めればリキュール畑で無双できるのではないかということだ。ケーキの生地は砂糖、バニラ、そしてファットウォッシングでバターを加えることでで大方再現可能、その上で例えばバナナを浸漬すれば今回のバナナパウンドケーキに、カカオニブを浸漬すればチョコレートケーキになるし、こんがり炙ったサツマイモを浸漬して、その上で黒ごま油をファットウォッシュし、カラメル化するまで煮立たせたシロップを加えれば大学芋のリキュールができるはずである。リキュールの世界になかった常識をお菓子の世界から持ち込んで異世界転生無双…これは唆るぜ…!!ということでつぎから色々やってみようと思う。

またファットウォッシングは以前より知っていた技法だが、実際に活用したのは今回が初めてであった。結果素晴らしい結果を得ることができて満足である。その中で、例えばピーナッツバターをファットウォッシングに適用したらどうなるだろうかという気づきも得た。次のバッチでは意欲的なファットウォッシングを試してみたい。

2020/3/22 yasu