第二章 物品調達計画

屋台製作の翌日、大学の研究棟前にホームセンターのトラックがやって来た

おでん屋台が完成した翌日、屋台がトラックに載せられ研究室に到着した。なるべく先生方に見つからないように学生の休憩部屋に運び込む。

この時点で決行日である修士論文中間審査会まであと4日。酒呑みたちの間で、具体的なおでん屋台の仕様について検討が始まった。

2.1 備品調達計画

酒と食べ物については勿論だが、それを楽しむ空間づくりに対しても彼らは妥協を許さない。予算が許す限り雰囲気を追求しようという共通認識の下、屋台のマストアイテムとして以下のアイテムが挙がった。

・赤ちょうちん

・おでん用の矩形鍋

・赤のれん

・ビールケースの椅子

赤ちょうちんとか最初どうすんねんと思ったが、これはなんとアマゾンやモノタロウで買える。しかも1800円で当日出荷。

その気になれば翌日に居酒屋を開ける国、日本。

矩形のおでん鍋についてもアマゾンで買えるようだ。4000円とやや値が張るが、誰も異論を唱えない。さすがわかってる。

早速ちょうちんとおでん鍋、その他にも投光器などをドカッとショッピングカートに放り込み、後輩の自宅を送り先に指定して注文した。赤ちょうちんやらおでん鍋やらが自宅にドカーンと届いたらこりゃさぞかし面白いだろうな~(他人事

赤のれんについては既製品ではやや値が張り、かつ今回の屋台に合ったサイズのものがなかったため、100円ショップで赤い布を購入し、それをベースに自作しようという話になった。

さてビールケースの椅子の入手についてはヤフオクあたりかな?と最初は考えていたが、先輩が酒屋に聴いたところによると、たったの300円で買えるらしい。

マジかよ。もはや椅子の値段としても底値である。話し合いの結果、3つ購入する流れとなった。

屋台で使用する食器類についても紙皿、紙コップや割り箸は当然のごとく論外である。

もちろん今回の参加者はそれぞれ自分の酒器ぐらい持ってはいるが、徳利やおちょこ、箸などは新たに全て購入することにした。これは後輩が提言した「食器を統一して店舗としての雰囲気を演出する」というこだわりに基づいたものだ。

流石、ぬかりない…

2.2 おでん調達計画

おでん屋台の大方の仕様が決まったので、次は食べ物と飲み物に関する仕様検討だ。

今回のメインディッシュとなるおでんについては、諸々の手間を考慮して袋詰されたおでんパックを買おうという話になった。どうやら業務スーパーで700gのおでんパックが400円で販売されているようである。

しかしここで流れを変えたのが、魚釣りが趣味の後輩だ。

「仙台朝市におでん種の専門店があるみたいなので、僕がそこでおでん種買ってきますよ!」

調べてみると、仙台朝市に店を構える「佐藤敬商店」がその専門店らしい。お店が紹介されていた記事を観てみると、「ちくわやさつま揚げ、がんもどき、ごぼう巻など、さまざまな種がビニール袋にびっしり入って450円。」との記載が。

うーん、最高。一瞬で採用である。

2.3 俺達の考える最強の居酒屋屋台を目指して

そして魚釣り後輩は続ける、

「おでんだけじゃなくて、やっぱり刺し身やなめろう食べたくないですか?僕が仙台朝市で魚を買ってくるんで、My出刃包丁でさばいて作りますよ!」

マジかよ。

魚釣り後輩、優秀すぎるぞ…

一方この話を聴いていた酒飲みたちも黙っちゃいない。じゃあ俺も俺もと自分の考える理想のおつまみ論を語りだした。

「やっぱり僕、焼き鳥も食べたいんですよね…」

「業務スーパーで売ってる冷凍焼き鳥を好きなだけ焼いて食べてみたかったんですよ。」

「七輪を導入して焼き鳥でもエイヒレでもなんでも炙って食べたくないですか??」

「肉豆腐が作りたいです…」

もうみんな欲望のままに言いたい放題だ。


そう、この瞬間である。


この瞬間こそが「青葉山おでん計画」のターニングポイントであり、計画の目的が「おでん屋台を作る」から「おでん屋台の形を借りた理想の居酒屋像を実現する」に変わった瞬間である。

「おでん屋台」はあくまでMinimum Successに過ぎず、Extra Success-俺たちの考える最強の居酒屋屋台の具現-こそ我々が真に目指すべき世界なのである。

この認識が計画に参画する酒呑み全員に共有されたのだ。(意味不明


そしてその影響は食べ物のみならず酒にも及んだ。

熱い議論の結果、日本酒に関してはおでんに合う銘柄として秋田の高清水、そして我らが宮城の伯楽星が選ばれそれぞれ1升瓶を買うことが決定。

そしてビールについてはサッポロ黒ラベル、サッポロラガー赤星、キリンクラシックラガーそしてキリン一番絞りとれたてホップの4種類を大瓶で仕入れることが決定した。もう完全に「俺の考えた最強の居酒屋」を地で行く形だ。プレミアムモルツなんか俺は絶対に許さんぞ。

すると今度は酒呑みの中でも重度の日本酒好きが

「三本ぐらい山形の地酒を買って勝手に持って行くわ」

とか言い出した。

なんていいやつなんだお前…と思ったが、単純に呑む機会に乗じていろいろ買っただけって説もある。

そしてそれだけじゃない、今度は重度の洋酒好きで後にウィスキーエキスパートの資格を取得することになる後輩が

「おそらく当日はめちゃくちゃ寒いんで僕はホットウィスキーでも出しましょうかね。」

と西洋の風をおでん屋台に取り込んできた。

もはや屋台なのかバーなのかよくわからなくなってきたぞ。


しかし何なんだこの優秀すぎるメンバーは…全員酒呑みのアベンジャーズかよ…

「日本よ、これが居酒屋屋台だ。」って言われて出てきた屋台が

看板メニュー : 朝市で仕入れたアツアツおでん、宮城の新鮮なお刺身となめろう、炭火焼きの焼き鳥、 じっくり煮込んだ肉豆腐

お酒 : 高清水(熱燗)、伯楽星、山形の地酒三種、黒ラベル、赤星、クラッシクラガー、とれたてホップ、ウィスキーエキスパートの選ぶウィスキー

だったらもう降伏するしかない。


これは面白くなってきたぞ………!!!!!!!!!

2.4 計画発動前日

そして「青葉山おでん」開店日の前日である2016/11/24を迎えた。

後輩の家に着弾したおでん提灯やおでん鍋はすでに研究室に運び込まれ、それらを改めて自分で見た瞬間、やっぱり笑いが止まらなかった。

そしてその夜、ガランゴロンと聞き覚えのある音を立てながら、研究室に男たちがやってきた。

そう、ビール調達班の帰還である。

ダンボールの中に広がるサッポロの星空

ダンボールの中を覗くと、そこには数多の大瓶とその頂点で輝く☆マーク。

もう何ていうか、そう、これは酒呑みのための星空。しかも満天の星空だ。

酒入りダンボールはもう一つ

もう一つのダンボールにはキリンと高清水の一升瓶が収められていた。目の前に未開封の一升瓶があると幸せな気持ちになるということが明らかになった。

そしてもう一つ、調達班は重要なアイテムを持ってきた。

椅子×4

ついに届きました。ビールケース。

最初は3つでいいかって話をしていたビールケースだが、どういうわけか4つ来た。なんでや。

しかもブランドは今回のビール銘柄に合わせてサッポロとキリンだ。もう何も言うことなし。

しかしそんな事はどうでもいい。とにかく座ろうぜ!!!

すわってみた人曰く、「これめっちゃしっくり来ますよ」

しっくり来るのである。

この「しっくり来る感じ」は決してエルゴノミクスデザインとかそういうものじゃない。今まで各々が居酒屋で覚えてきたあの感覚が今、研究室にあるのだ。

ダンボールを敷くことで断熱性とクッション性もバッチリだ。

「デスクの椅子も全部このビールケースでいいんじゃないですか」という意味不明な意見も出るほどだ。どうやらこの椅子に座るだけで酒呑みの意識は朦朧とするようである。

とりあえず当日に備えて居室の片隅にまとめて置いてみた

いやこれ、面白すぎる。存在感が大きすぎる。

だって赤と黄色だもんな…

研究室内に普段と違う雰囲気が漂っていたのは、それが中間審査会前日であったからではなく、サッポロとキリンのビールケースが置いてあったからである。